第77回 昔は良かった? 照明がなければ人は長く眠れるのか

 米国カリフォルニア大学の研究者を中心としたグループは、タンザニア北部に住むハッザ族、ナミビアのカラハリ砂漠に住むサン人、そして、ボリビアの先住民チマネ族など世界各地の狩猟採集民族の睡眠習慣を調査した結果を報告している。

 ちなみに、私が子どもの頃にはサン人はブッシュマンと呼ばれていた。現在では侮蔑的かつ性差別表現だとして使われなくなったが、明るい太陽の下、日中は狩猟や食物の採取、夜はぐっすりと休んでいるイメージがある。

 これら3部族の居住区域では電気やガスなどの社会インフラが十分に整備されていないため、人工照明は使えない。日没後にはたき火程度の明るさしか得られず、当然ながらテレビやインターネットなど睡眠時間帯に食い込むような娯楽もない。ハッザ族の生活の様子についてはナショジオで以前紹介している(「ハッザ族 太古の暮らしを守る」) のでご覧いただきたい。

タンザニアのハッザ族の睡眠パターン
Sleep periodとは「寝ついてから最後に覚醒するまでの時間帯」である。その間に長い中途覚醒がみられた。Sleep periodには年間で1時間ほどの季節変動があり、夏場には主に寝つく時刻が遅れることで睡眠時間が短くなった。日中の気温が30℃ほど、夜間は明け方に10℃ほどまで冷え込んでおり、外気温が低下する時間帯に眠る傾向が見られた。(Yetishら(2015年)のデータから)
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 季節や緯度によっても違うが、これらの地域では概ね日没が18時〜19時、日の出が6時〜7時で、いわゆる夜は12時間前後である。さて、彼らの睡眠時間はどうだっただろうか。夜長をぐっすり眠って過ごしていたのだろうか。結果から言えば「予想よりも短かった」のである。

 12時間も闇夜で生活しているにもかかわらず、睡眠時間は平均で6.4時間(6時間24分)しかなかった。3つの部族間での違いもほとんどなかったとのこと。

 調査対象者の平均年齢は36.5歳であったが、先進国の調査では同年代における睡眠時間は約7時間である。つまり30分以上短かった。ちなみに、ここでの睡眠時間とは正味の眠れている時間のことで、寝床にいる時間ではない。

 彼らの寝つく時刻は早く、日没から3時間後の21時過ぎであった。そして、明け方5時頃、日の出近くになって目を覚ます。寝床にいる時間は8時間前後で、かなりの早寝早起き生活である。すっかり夜型生活に染まった現代人でも、人工照明がなく太陽光のみの環境下で生活させられると体内時計の時刻が早まり、睡眠時間帯が早まることが実験でも明らかになっている。

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