第76回 不眠症に効果アリ? 睡眠アプリのヒミツとは

 まだ理由ははっきりしていないが、個人的には「癒やされ感」だと考えている。

 例えば、英国で開発されたSleepioでは、可愛らしいキャラの博士と愛犬がアプリ中に登場し指導してくれる。インタラクティブ感(対話、交流している感じ)が強く、くじけそうになった時、不安な時に、大いに支えになっていることは間違いない。このようなキャラ作りや役回り設定は、アプリ作成に要した努力の過半を占めるのではないかとさえ思う。研究者やプログラマーだけでは無理で、デザイナーなどアート系の人材も投入されているのだろう。

 考えてみれば人が行うCBT-Iでは認知や行動上の指導もさることながら、治療者による「受容」や「共感」も効果を発揮するための大事な要素となる。治療理論に従った指導も大事だが、「指示通りに睡眠を調整するのは大変だったでしょう」「多くの人は一度や二度は失敗してしまうんです」「くじけず一緒に頑張りましょう」という言葉が癒やしになる。

 先日、認知症関係の学会に参加したとき、介護ロボットに関するシンポジウムがあり聴講してきた。周囲に全く無関心であったり、攻撃的であったりなど、キャリアのある介護士さんでも対応に苦慮していた認知症患者さんが、可愛らしい人型ロボットやアザラシ型ロボットによって癒やされ、劇的に改善する事例が紹介されていた。

 確立された理論やスキルだけでは不十分。時には優しいまなざしやつぶらな瞳が口ほどにものを言うことがある。懲りずに進めている現在開発中のCBT-Iアプリは「癒やし」の壁を乗り越えられるだろうか……。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。