第76回 不眠症に効果アリ? 睡眠アプリのヒミツとは

 例えば英国のグループによって開発された有名なアプリ(Sleepio)は、不眠症の患者さんを対象にした臨床試験でとても良い成績を収めている。寝付きにかかる時間や夜中の目覚め時間が約60%も短くなり、結果的に日中の体調も大幅に改善したという。これは熟達した治療者ほどではないが、標準的な治療者のCBT-Iや睡眠薬と同等の効果である。

 オーストラリアで開発されたアプリもなかなかパワーがある。不眠に悩む人を対象に効果を試したところ、不眠だけではなく抑うつ症状の改善も認められている。慢性不眠はうつ病に先立って出現することが多く、よく眠ることでうつ病の発症リスクを抑えることもできる。そのため、将来的にはうつ病の予防プログラムにCBT-Iアプリを利用できるかもしれないと期待されている。

 これら試験は公的機関に登録され、厳密な手順を踏んで行われており結果の信頼性が高い。ただし、残念ながらSleepioもオーストラリアのアプリも日本語版はなく、日本人でも効果が出るかは未知数ではある。

 さて、最初に成功例を取り上げたが、その他の多くのCBT-Iアプリは開発途上か、出来上がっても期待していたほどには効果が出ないものが多い。使われている治療理論は概ね同じだが、効果に差が出てしまう原因はどこにあるのだろうか。

 その説明のために、CBT-Iについてもう少し詳しく説明しよう。

 CBTとは、患者さんの物事(心配事)に関する認知や行動に働きかけて気分や不安を緩和する心理療法の一種である。認知とはその人に特有な物事の受け取り方や考え方のことで、精神的なトラブルを抱えると認知の「歪み」が生じやすい。

 例えば、毎晩のように不眠で悩んでいる人であれば、「眠れず苦しかった」「まんじりともせず過ごした」という体験を積み重ねるうちに、就寝時刻が近づいてくるだけで頭の中に「今夜もどうせ眠れない」という考えが次々と浮かんで頭から離れなくなる。これは自動思考と呼ばれ、認知の歪みの一種である。

 その他にも、イライラや不安が強くなり、「こんな気分で眠れるはずない」「どうせ今回処方された睡眠薬も効かないだろう」と決めつけてしまう(感情的きめつけ)。

 日中に何か失敗して、それが不眠とは直接関係なくても「原因はすべて不眠」と誤った関連づけをするようになり、「不眠だから何も出来ない」「眠れさえすれば……」と何かにつけて不眠を悪者にし(過度の一般化、責任転嫁)、そのためぐっすり眠ることに過大な期待を抱くようになる。

次ページ:「歪み」の治療法