第88回 睡眠リズムの乱れは心の乱れ、躁うつ病では顕著

 このようにIPSRTが気分を安定させる効果は、対人関係ストレスの緩和、社会的役割をうまく果たしている実感(自己効力感と呼ばれる)、社会リズムの安定化など多面的である。その中でもIPSRTを考案したエレン・フランクは社会リズムの安定化をかなり重視しているようだ。

 詳しい説明は別の機会に譲るが、睡眠リズムの日々の変動が大きくなると気分が不安定になることが臨床研究やシミュレーション実験などから明らかになっている。強い夜型生活を送る人や睡眠リズムの異常を呈する患者さんがうつ状態に陥ることが多いのも、不安定な睡眠リズムの結果として、気分の調節に関わるセロトニン神経系やストレス応答系に機能異常が生じるためと考えられている。

 日々の生活では健康な人でも就床時刻、起床時刻は若干のずれが生じるのは当たり前である。とはいえ、特段の事情でもなければ私たちの就寝時刻、起床時刻のばらつきはせいぜい1、2時間程度に留まる。ところが双極性障害の患者さんではより大きな睡眠リズムの乱れがみられることが少なくない。これがまずい。

 たとえば双極性障害の患者さんに40時間連続で起きてもらう(徹夜明けも翌日の夜まで眠らない)と7割以上で躁状態になったという研究報告もある。いかに睡眠リズムの変化に弱いか分かるデータである。一方で、薬物療法で治らなかった双極性障害の患者さんに、睡眠と体内時計の変動を抑えるために毎日定時に寝室で就寝してもらったところ気分が安定したという有名な報告もある。規則正しい睡眠習慣を保つことは想像以上に気分を安定させる効果があることを示す証拠の1つである。

 双極性障害の患者さんだけに限らず、自分の睡眠リズムと気分の関係には意外と気づきにくいものである。世界に冠たる「睡眠不足大国」の日本。睡眠の問題となると、とかく寝不足が語られがちだが、実はリズムもとても大切である。近頃、気分が不安定だと思っている人は、自分の睡眠のリズムを振り返ってみると思わぬ気づきがあるかもしれない。

つづく

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三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。