第88回 睡眠リズムの乱れは心の乱れ、躁うつ病では顕著

 IPSRTは文字通り対人関係療法と社会リズム療法を融合させた薬物によらない治療法で、米国で行われた大規模な臨床試験で双極性障害の再発予防効果をもつことが明らかにされている。本稿ではその詳細を説明するスペースはないが、エレン・フランクさんの著書が邦訳されているので関心のある方はお読みください。

 IPSRTのユニークな点は、ソーシャルリズムメトリクスと呼ばれる一種の生活表に、起床、出勤・登校、運動、昼寝、夕食、就寝などさまざまな生活時間とともに、睡眠も含めた生活リズム(社会リズム)を乱す原因となったイベントや、その結果生じた気分の変動の大きさを患者自身が記録するところだ。社会リズムが崩れる原因には対人関係のストレスが深く関わっていることが多いため、その時の人間関係(対人関係)の影響の度合いも書き込む。

 たとえば、事務員として働いている双極性障害の男性は、完璧性だが手際が悪いためいつも残業になっていた。同僚の仕事ぶりに対する不満から人間関係の軋轢も生じてストレスを溜め込んでいた。帰宅しても頭の切り替えができず寝つきも悪い。特に2カ月に一度の棚卸しのある週は心配性に睡眠不足も加わって、軽い躁状態とイライラが混じった不安定な状態に陥ることが多く、上司の不評を買っていた。

 この男性は、抑うつ状態と軽い躁状態を繰り返す双極II型(双極性障害の一種)を患い、薬物療法で再発が予防できなかったのだが、ソーシャルリズムメトリクスを記録することで業務負担やそれに伴う生活リズムの変化、対人関係と気分変動との密接な関係に気づくことができた。その結果、気分が不安定になる回数が目に見えて減ったのである。

 文章にすると簡単だが、実生活では自分の精神状態の変化やその原因を客観的に把握することはなかなか難しいのである。双極性障害の患者さんでは、ほかにもサークル活動や町内の定例会での対人ストレス、生理周期などが再発のトリガーとなっていることにうまく気づけない人が多い。

 ソーシャルリズムメトリクスはこれらの再発のタネを「見える化」することで気づきを促す効果がある。男性はソーシャルリズムメトリクスの解析やカウンセリングを通じて、業務負担を軽減し(良い意味での手抜きをし)、生活リズムを崩さないように心がけ、対人関係ストレスに対処するスキルトレーニングを受けることによって同僚との適度な距離感を保てるようになったのである。

次ページ:想像以上に気分を安定させる効果が

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