第87回 肥満が眠気をもたらす理由、睡眠時無呼吸ばかりじゃない

 英国の代表的作家であるチャールズ・ディケンズの小説の1つに『ピクウィック・クラブ』(ちくま文庫)がある。1936年〜37年にかけて上梓された長編で、ディケンズが小説家としてキャリアを積み始めた最初期の作品の1つである。

 実業界で成功したお人好しの紳士ピクウィック氏が巻き起こすコメディタッチの人間劇なのだが、作中に登場するジョーという少年が睡眠障害の専門医の間ではとても有名で、小説の題名を冠した「ピックウィック症候群」という睡眠障害もある。

 ピックウィック症候群は現在では睡眠時無呼吸症候群と呼ばれており、この病名であればご存じの方も多いだろう。ジョー少年は肥満で赤ら顔、いつもウトウト居眠りばかりしているのだが、それがまさに睡眠時無呼吸症候群の患者さんの典型的な様子なのである。

ヒツジくんが装着しているのは睡眠時無呼吸症候群の治療機CPAP。だが、これで呼吸を回復させても眠気が残ることがある。そのわけは?…(イラスト:三島由美子)
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 睡眠時無呼吸症候群には大きく分けて閉塞型と中枢型があり、圧倒的に多いのは閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstructive sleep apnea syndrome; 以下、OSAS)である。OSASの一番の原因は「舌」。舌は実に大きくて重い筋肉の固まりなので、健康な人でも仰向けの姿勢で寝ていると重力のために咽頭(喉の奥)に落ち込みがちになる。加えて、肥満で咽頭や気道が狭かったり、扁桃腺が大きい人では気道を完全に塞いで息が止まってしまいOSASを発症する。

 1回10秒以上の呼吸停止(無呼吸)が1時間あたり5回以上あるとOSASと診断される。重症のOSAS患者になると1分以上続く無呼吸もまれではない。とはいえ、ずっと塞がったままだと死んでしまうので、睡眠中でもさすがに息苦しくなり途中で呼吸が回復するのだが、このときに眠りがいったん浅くなり、時には目覚めてしまう。重症患者の睡眠中の脳波を測定すると、一晩に百回以上も短時間の覚醒が起こり、深い睡眠が全く出現しないことも珍しくない。そのため日中にひどい眠気が出る。

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