第86回 寝てる間に殺人犯になってしまった! そのワケとは

事例1:寝室内の物音で目を覚まし、侵入者と間違えて妻を殺した
事例2:夜勤の仮眠中に同僚に起こされた直後、混乱して射殺した
事例3:物音で目覚めた少年が横で作業をしていた友人を刺し殺した
事例4:ホテルの部屋にポーターが入ったところ、目覚めた客に撃たれて死亡

 これらは裁判の医学鑑定で「錯乱性覚醒」と診断された事例である。弁護側から依頼された鑑定医による診断で、必ずしも証拠採用されたものばかりではないが、睡眠医学の専門家による鑑定であるため信頼性は高いとされている。

 なんだ、「目が覚めた後」に殺人が起こっているじゃないか、病名にも「覚醒」とあるし、と突っ込まれそうだが、これはまるで目が覚めているかのように異常行動を起こし始めたことを便宜上「覚醒」と表現しているだけで、脳波上は睡眠時に見られる周波数の遅い脳波が多数残存しており睡眠状態が続いている。そのため、自分が今どこにいるのか、何をしているのか(自宅や出張先で目覚めた、など)状況が認識できず精神的に混乱してしまう。声をかけても的外れな返答や行動しかできない。

 錯乱性覚醒は、深いノンレム睡眠から急に目覚めた(目覚めさせられた)際に起こることが多い。健康な人でも深い眠りからは目覚めにくいものだが、錯乱性覚醒では何らかの原因で完全な覚醒状態に移行できない状態が続くと考えられている。脳が未熟な幼児期に多い睡眠障害だが、成人になっても起こることがある。

 特に事例にあるように睡眠中に無理やり起こされた時などは、ひどく興奮して起こした相手に殴りかかるなど粗暴な行動がみられる。このような状態が短ければ数分、長いときに何時間も続く。米国のように手元に銃があると時に大事件になってしまう。ベッドパートナーに性行為を無理強いすることもあり、レイプ裁判で問題になることもある。

 錯乱性覚醒のほかにも睡眠中の殺人事件の原因となった睡眠障害がある。その例を紹介しよう。

次ページ:絶叫したり暴れるなど激しい興奮状態にも

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