第39回 ヨコヅナの強さ

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 ヨコヅナクマムシはその名の通りクマムシの横綱である。地上最強の生物といわれるクマムシのなかでも、横綱級に強いからだ。つまり、生物界の頂のさらに頂に位置する生物なのである。まさに、キング・オブ・キングスである。いや、ヨコヅナクマムシはメスしかいないから、クイーン・オブ・クイーンズとよぶべきか。

 さて、では何をもってして「強い」とよばれるのか。これには、きちんとした評価のモノサシがある。どれくらい急速な乾燥に耐えられるか、という尺度で強さを測るのだ。

 緩歩動物門クマムシには現在1200種以上がいる。海に住むのもいれば、山で暮らすものもいる。海や川にいる種類のクマムシは、乾燥すると乾眠にならずに干涸びて死んでしまう。常に水があるこのような環境では乾燥にさらされることがないため、乾燥耐性が発達しないのだろう。

 乾燥にさらされたときに乾眠に移行できるのは、乾燥にさらされる陸に住んでいる種類だけ。陸生クマムシのなかにも、ジメジメした土の中を好む種類もいれば、ヨコヅナクマムシのように直射日光にさらされる路上のコケの中を好むものもいる。ジメジメしたところに住むクマムシは、とてもゆっくりと乾燥したときのみ、耐えることができる。ちょっと早く乾かすと乾眠に入れずに死んでしまう。その一方、カラカラのコケに住む種類は急速な乾燥でも死なずに乾眠に入れる。

 コケの中に住んでいるクマムシのなかでも、ヨコヅナクマムシはとくに急速な乾燥に耐える。大人や子どもは乾燥すると樽型になる。卵は、空気が抜けきったサッカーボールのように、真ん中がベコンとへこんだ形になる。大人や子どもに水をかければ10分くらいで復活するし、卵に水をかければ発生を再開して孵化する。ヨコヅナクマムシの強さをお分かりいただけただろうか。

 ところで、ここで「急速な乾燥に耐える」というのは、スライドグラスに乗せて、やや低湿度(50〜60パーセント)の条件で乾かすようなシチュエーションを指していることに注意。間違っても、ヨコヅナクマムシをスライドグラスの上にのせてドライヤーで乾かすようなマネはしないで欲しい。クマムシをしっかりと乾眠にさせるには、第20回「生きたままのミイラをつくる」で説明したようにろ紙の上で乾かせるのが吉だ。ここ、テストに出ますよ。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad