第37回 目に焼き付ける、クマムシの色。

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 野外のコケなどを採取してみつかるクマムシの多くは真クマムシ類である。たいはんの真クマムシ類は体色が白っぽい半透明である。実体顕微鏡で観察しても、ほとんど同じような形をしている。だが、実際にはその中で多数の種類が混在しており、種の判別はクマムシ分類学の専門家をもってしても難しい。

 ヨコヅナクマムシを含むツメボソヤマクマムシ属(Ramazzottius)の種類は、真クマムシ類にしては珍しく、体が茶褐色をしている。ツメボソヤマクマムシ属を野外で発見するのは困難だが、茶色いクマムシが見つかれば、それはツメボソヤマクマムシ属であることが一目で分かるため、種類の判別はその他の真クマムシ類に比べれば容易である。

 ただ、ヨコヅナクマムシの飼育をしていて気付いたのだが、体色が成長するにつれて変化する。その体色は常に一定ではないのである。

 ヨコヅナクマムシは卵を産み落とされてからおよそ5日間で孵化する。孵化したばかりの赤ちゃんヨコヅナクマムシの体長は0.15ミリメートルほどであり、大人のそれの半分にも満たないが、姿格好は大人とほぼ同じである。そして体色は白っぽい半透明である。生まれたばかりは、茶褐色ではないのだ。この特徴的な体色を欠いているため、仮に野外から赤ちゃんヨコヅナクマムシを見つけたとしても、それがヨコヅナクマムシの個体とは気付かないだろう。

 孵化して3日くらいすると、うっすらと背中に茶色の縞が浮かび上がってくる。日を追うごとに体色は濃くなっていき、一人前の立派なヨコヅナクマムシへと成長する。そして体色が黒ずんだ茶褐色になると、そろそろお迎えも近い。大往生を遂げたヨコヅナクマムシへ。君たちのその茶褐色は、いつまでも僕の目にしっかりと焼き付いているよ。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad