第44回 ビッグ・クマムシ

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 ほとんどの種類で体長が0.5ミリメートルに満たないクマムシを長年扱っていると、このサイズに慣れてしまう。小さなアリやミジンコでも数ミリメートルほどはある。これくらいの大きさの生物でも、とても大きく感じる。クマムシと同様に乾眠能力のあるネムリユスリカは体長が5ミリメートルほどあるが、初めてこれを見たときも、思わず「大きい!」と叫んでしまったほどだ。 

 これまで紹介したクマムシの中で大柄な種類といえば、肉食性のオニクマムシ。体長は0.7ミリメートルほどになる。大きいから「オニ」という名前が付けられたくらいである。だが、クマムシの中にはもっと大きな種類がいる。それが、カザリヅメチョウメイムシである。

 この種類には体長が1ミリメートルを超える個体もいる。ただ、この種類の出現頻度は高くなく、市街地ではまず見つからないレアなクマムシだ。

 だが、このカザリヅメチョウメイムシが無数に蔓延する場所がある。それが、スウェーデンのエーランド島だ。エーランド島では車道に沿って古い石壁が立っている。この石壁にはコケがびっしり生えており、ここにカザリヅメチョウメイムシが住んでいる。

 ここからコケをごっそりと持ち帰り、カザリヅメチョウメイムシを取り出して様々な実験に使うヨーロッパの研究者もいる。カザリヅメチョウメイムシはその大きさゆえに実験に用いるときに扱いやすいのである。

 私は以前、このエーランド島を訪れてカザリヅメチョウメイムシを採取したことがある。実際に見たこのクマムシは息を飲むほど大きく、美しい黄色に輝いていた。顕微鏡を通さなくても、ゆっくりと歩いているのがわかるほどだった。

 この大きなクマムシを飼育できれば、研究も進展するはず。そう思ってトライしたが、クロレラを含めたどのエサも受けつけてくれなかった。残念。

つづく

堀川大樹

堀川大樹(ほりかわ だいき)

1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶応義塾大学SFC研究所上席研究員。2001年からクマムシの研究を始める。これまでにヨコヅナクマムシの飼育系を確立し、同生物の極限環境耐性能力を明らかにしてきた。2008年から2010年まで、NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施。2011年から2014年まで博士研究員としてパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所ユニット1001に所属。『クマムシ博士の「最強生物」学講座――私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)の著書がある。Webナショジオ「研究室に行ってみた。」の回はこちら。人気ブログ「むしブロ」および人気メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad