河江肖剰さん『最新ピラミッド入門』新刊インタビュー

『河江肖剰の最新ピラミッド入門』
定価:本体1,800円+税

エジプト考古学者、河江肖剰さんの新著『河江肖剰の最新ピラミッド入門』を小社より発行しました。河江さんは、現場での発掘調査だけでなく、3D計測などの先端技術を使った調査・分析を通じて、ピラミッドの実像に迫る新進気鋭の考古学者です。Webナショジオでも「新たなピラミッド像を追って」を連載しています。新著の刊行を記念して、研究を始めたきっかけ、研究に対する思いなどを聞きました。

■ピラミッド研究を始めたきっかけは?

 中学生の頃、ギザの大ピラミッドの内部を調査するテレビ番組に目が留まりました。精密重力計を使ってピラミッドの密度を調査した結果、内部の水平な通路の西側に密度の異常が見つかったというのです。壁にドリルで穴を開け、ファイバースコープで内部を撮影しようとしていました。この番組に、私はくぎづけとなりました。私がピラミッドに興味を持つきっかけとなった番組です。

 高校を卒業した後、古代エジプトの勉強がしたいという思いは深まり、単身エジプトにたちました。一切反対せずに送り出してくれた両親には感謝しています。しばらく観光客のガイドとして働いた後、26歳のときにカイロ・アメリカン大学に入学する機会を得ました。そして大学4年生のときに出会ったのが、ピラミッド研究の第一人者であるマーク・レーナー博士です。幸運にも、彼のもとで発掘調査に参加できることになりました。

■レーナー博士のもとで3D計測を始めたのですか?

 レーナー博士は「測る」ことを重視する人でした。それまでのピラミッド研究は仮説が多く、なかには幻想に基づく話もありました。地形や地質を考慮した現場のデータがなく、また建造に関わったり、そこで生活したりしていた「人間」の要素に欠けていたのです。そこで博士はピラミッドのみならず、その石切り場や石を運び上げるための傾斜路、労働者の住んだ町などを包括的に理解しようと、ピラミッドのあるギザ台地全体を測量し直しました。その結果、ピラミッドづくりに関わった人々の居住地「ピラミッド・タウン」の発見に至ったのです。

 このレーナー隊の調査のなかで3D計測に携る機会があり、これまでにない新しい記録方法にとても魅力を感じました。そこで3Dデータの取得方法とその解釈について論文にまとめ、名古屋大学で博士号を取得しました。3D計測には工学的な知識も必要なので、日本の研究者や技術者の方々の協力を得ながら取り組んでいます。

河江さんの後ろに投影されているのは、ギザの大ピラミッドの北東の角、高さ80メートル地点にある「窪み」の内部を再現した3D画像。撮影したテレビ映像を基に、コンピューターを使って3Dモデル化した。(写真:HIROMICHI MATONO)

■3Dスキャナーでの記録、映像からの3Dデータ作成など、デジタル技術を駆使していますね。

 意外なことに、ピラミッドに関する主なデータは、30~50年、あるいは100年前のものが使われています。線画のような資料しかなく、一つひとつの石を実測し、その積み上げ方がわかるようにしたデータなどは存在しません。だから私は、ピラミッド研究の基礎となる新しい資料として、古王国時代の主要なピラミッドを3Dデータ化したいと思っています。

 十数年前、3D計測は夢の技術でした。それが今、デジタル技術のおかげでより手軽に、より正確なデータを得られるようになりました。レーザースキャナーを使ったり、写真や映像から3Dモデルを制作したりと、以前は考えられなかったような手法が次々と生まれています。今後は、ドローンを使ったピラミッドの空撮も行いたいです。もちろん、自分の手足を使った現場調査も大切なので、バランスは必要です。

■データを集めることで、何が明らかになるのでしょうか?

 考古学の役割の一つは「ミステリーを解体すること」だとレーナー博士は語っています。あこがれや幻想をはぎ取り、実像を表に出すのです。従来のピラミッド研究は、いわば幻想から生まれた謎を追ってきたと思います。

 たとえば、「ピラミッドの各辺は寸分たがわず東西南北を向いている」という話があります。しかしそれは、一番下の段の化粧板の一部を測っただけでそう考えられたわけで、実際には“ずれ”があることがわかってきました。私はそれを、202段すべてで検証し、各段でどのくらいずれているのか、どんな方位の測り方をしていたのかを分析したいと思っています。「ピラミッドは完璧」という幻想を前提とせず、事実を基に検証し直すのです。

 前提が変われば、その謎自体、問う意味がなくなります。基礎的なデータを見直せば、より適切な謎が生まれてくるはずです。より適切な問いかけがあればこそ真実に近づけます。そこがスタート地点になるでしょう。

■今回の新著でも、ミステリーではない、新しいピラミッド像を描き出していますね。

 ピラミッド研究は、いわばジグソーパズルのようなものです。近年、新たな発見と最新科学による調査を通じて、これまでは見えていなかったピースが増え、壮大な絵が浮かび上がりつつあります。読者の皆さんには、本書を通じて“リアリティ”のあるピラミッドのイメージを膨らませてほしいです。

 本書では、文章だけでなく、写真もふんだんに使っています。写真によってイメージはより鮮明になるでしょう。また、文章もできるだけ曖昧な表現を避け、言い切るように心がけました。古代のことは、100パーセント解明することは難しいものです。ただ、ピラミッドを知るための入門書として、ピラミッドの迫力や多様性、美しさを、できるだけシンプルに伝えたいと思っています。

(写真:HIROMICHI MATONO)

『河江肖剰の最新ピラミッド入門』

新進気鋭の考古学者が紹介する「新しい古代エジプトの姿」。謎に満ちたピラミッドへのスリリングな挑戦!

 河江肖剰 著
 定価:本体1,800円+税

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(ナショナル ジオグラフィック日本版 2016年12月号に掲載したインタビューを再構成)