宇宙ジャーナリストが語る「火星計画の精神的希望」

火星の大地を歩く宇宙飛行士。ナショナル ジオグラフィック制作のTVシリーズ『マーズ 火星移住計画』のワンシーン。(PHOTOGRAPH BY ROBERT VIGLASKY, NATIONAL GEOGRAPHIC CHANNELS)
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 米国の分断が残酷なほど明らかになった1週間が終わったとき、目に見える希望はあまりに少なく、とうてい手の届かないもののように思えた。

 しかし私は、意外なところで慰めを発見した。団結した人間がどれだけ強い力を持ち、人々の心を鼓舞することができるかを、改めて思い出させてくれるものを目撃したのだ。

 それは火星の上を初めて歩いた人々の姿を描く、あるテレビ番組を見ていたときのことだった。物語は、2033年に人類として初めて火星に降り立った6名のクルーを中心に展開する。クルーのメンバーは、世界各地から集まった男性3名、女性3名。彼らを派遣したのもひとつの国の組織ではなく、ある国際的な組織だ。

【動画】『マーズ 火星移住計画』予告編:2033年、人類初の火星有人ミッションは着陸を目前に控えている。現代の第一線の研究者たちの協力を得て制作されたこの作品は、火星を人類定住の地として開拓する人々を描く物語だ。

 11月15日に始まったTVシリーズ『マーズ 火星移住計画』(ナショナル ジオグラフィック)は、魂、希望、勇気に満ちた物語であり、さらにすばらしいのは、これが2016年の現実を踏まえて作られていることだ。

 現在、各国政府や宇宙飛行企業は、人間を火星に送り込もうと努力を重ね、自分だけでは手の届かない目標を、力を合わせて成し遂げようとしている。番組は虚構のストーリーをはさみながら、イーロン・マスク氏(宇宙輸送の米スペースX社CEO)、ピーター・ディアマンディス氏(米企業家。「Xプライズ財団」創設者)といった人物へのドキュメンタリー形式のインタビューを通じて、宇宙を旅する上での生物学的・技術的課題を解説していく。

 番組を製作したナショナル ジオグラフィックが、『マーズ』シリーズを通して伝えているのは、人間は意志の力を合わせることで何かを成し遂げられること、つまり、互いの違いにばかり目を向けず、協力することで初めて達成できる、とてつもなく壮大な目標についてだ。

 これと共通する思いを、私は11月10日、NASAのダバ・ニューマン副長官の口からも聞いた。どうやったら今の子供たちが現在進行中の火星探査計画に魅力を感じ、そこに参加してくれるようになるのかについての話の中で、副長官はこう言った。「私が伝えたいメッセージは、我々は子供たち全員を歓迎するし、そこには彼らのための居場所があるということです。この仕事には全員の協力が必要なのです」

 人類という生きものの最も良い点は、驚くほど利他的で、賢く、勇敢であることだ。そうした性質を個々に持っている人はたくさんいるが、それらがいくつも集まることで力を発揮する場面となると、宇宙の理解を目指して働くことほど適切なものはないだろう。

 そこで働く人々は、心も体も宇宙に投げ出し、地球人にとってひたすら厳しい環境の中で生き延びられるかどうかに挑んでいく。そのなかで、人間の恐ろしいほどの弱さと、力を合わせたときの強さの両方に同時に気づくことだろう。

 我々が力を合わせれば、人々が勇気を持てるような偉業を成し遂げられるのだということを思い出させてくれる何かを、私は、かつてないほど壮大な冒険の物語の中に見出した。あなたがそうしたものを見つけるのは、別の場所かもしれない。星々の間かもしれないし、職場での仕事の中や、信じるものを守ろうと努力する友人や家族の中ということもあるだろう。

 嵐のような1週間の中で『マーズ』が私に思い出させてくれたのは、人間の精神の力だ。我々の強さ、回復力、分裂するよりもつながろうという選択、共通の目標を持つことの大切さだ。今、私の心は少しだけ軽くなっている。

 さあ前に進もう。

(文=Nadia Drake/訳=北村京子)

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