自然の造形はなぜこんなに美しいのか――『自然がつくる不思議なパターン』著者が語る

自然のかたちには、生物と無生物、ミクロとマクロの世界をまたいで存在する不思議な共通性がある。しかし、そこには設計図にあたるものはない。自然の造形の不思議さを“自己組織化”というキーワードで解き明かそうとするフィリップ・ボール氏の最新作、『自然がつくる不思議なパターン(原題:Pattern in Nature)』が日経ナショナル ジオグラフィックから出版された。日本語版の出版に合わせて寄稿してもらった著者自身による自著解説を読みながら、美しい自然の瞬間を捉えたビジュアル図鑑の誌面をめくってみよう。

【枝分かれする結晶】
美しい模様を描く鉱物デンドライトは化石植物とよく間違えられる。
Photo Credit: Vangert, Shutterstock.com
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 「自然のパターン」というテーマは、いつも私の頭から離れません。自然の中に見られる規則的な形や模様は、仕様書も設計図もないのにどうして“自発的に”形成されるのだろう。私がこのテーマで『The Self-Made Tapestry』という本を初めて書いたのは、1999年のことでした。

 それから何年かして、私は「あの本を手に入れたいのだがどうしたらいいか」という質問をよく受けるようになりました。当時、その本はもう絶版になっていたからです。そこで私は、出版社のOxford University Pressに改訂版の出版を持ちかけました。それが実を結んだのが、2009年に発表した三部作『Nature’s Patterns: Shapes, Flow, Branches』です(本誌注:この三部作は『かたち―自然が創り出す美しいパターン』『流れ、同』『枝分かれ、同』として早川書房より邦訳されている)。

 それでも私の中には、まだ何となく仕事が終わっていないような感触が残っていました。このテーマは本質的に“ビジュアル”を通して語られるべきものではないか、雪の結晶から砂漠の砂紋、川の流れや銀河のかたちといったものまで、自然が持つ絶妙の芸術性が重要な要素ではないのか、と思うようになってきたのです。残念ながら、私の初期の著作では、科学的な記述に力を入れすぎて、“ビジュアル”に対して真正面から取り組む余裕がありませんでした。

 「自然のパターン」は、物理学、化学、生物学、地質学などの古典的な学問領域をまたいで存在する、とても重要な科学です。人間はこれまで、木々の枝、いわし雲、渦を巻いて流れる水などの複雑なパターンを見つめては、その中になんらかの真理がありそうだと感じてきました。自然の事象を注意深く見つめることができれば、答えの半分に到達したのも同然です。

【とぐろを巻け】
ヤスデの対数らせんは、先細のものがゆるやかに巻くことで出来るのだろう。
Photo Credit: Khritthithat Weerasirirut, Shutterstock.com
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 私の手元には、スコットランドの動物学者、ダーシー・トムソンがちょうど100年前の1917年に出版した『成長と形(原題:On Growth and Form)』という本があります。自然のかたちには、生物と非生物をまたいで存在する数学的、幾何学的ルールがあることを示したすばらしい図鑑です。自然の中に繰り返し現れるテーマの深遠な意味を理解するにあたって、決して神秘主義に陥らず、科学的な検証を積み重ねています。

 「自然のパターンをめぐる科学」の本質は、米国の物理学者リチャード・ファインマンが宇宙の働きについて語った次の言葉からも理解することができます。「自然は長い糸を使ってタペストリーを織る。だから自然の仕組みの一部を見るだけで、織り上げられたタペストリーの全体像がわかるのである」。

 私はこの『自然がつくる不思議なパターン』という書物の執筆にあたり、自然の持つ真に豊かな創造力に触れることができ、とても興奮しました。この気持ちを、このたび日本の読者の皆様と共有できることをうれしく思います。

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多様で複雑だが見事な規則性がある自然界の秩序を、数学と科学そして美しい写真によって探求する、自然の神秘に驚かされる究極の写真集。

[ビジュアル図鑑]自然がつくる不思議なパターン
価格:本体4800円+税
フィリップ・ボール 著
桃井 緑美子 訳
サイズ:サイズ:天地254mm×左右215mm
288ページ

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