映画とは違う? 最後の海賊ブラック・バートの実像

チャールズ・ジョンソンの『英国海賊史』に描かれたバーソロミュー・ロバーツとその海賊船。
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 17世紀から18世紀にかけてカリブ海と大西洋を荒らし回っていた海賊たち。ディズニーの映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のシリーズが大ヒットを記録し、そこに登場する海賊ジャック・スパロウが人気キャラクターとなるなど、勇猛で豪快、時に騎士道精神すら垣間見せる海賊たちは、ある意味で現代人のあこがれの対象だ。しかし、小説や映画の世界ではなく、歴史の中を生き抜いた現実の海賊たちは、どのような存在だったのだろう。

 ナショナル ジオグラフィックの別冊『魅惑の財宝伝説 失われた黄金と宝石の謎』は、世界中の人々を魅了する財宝と、それを探し求めるトレジャーハンターの物語を集めた本だ。その中では、世界各地の宝物を略奪してかき集めた海賊たちの実態についても解説している。ここでその一部を紹介しよう。

■最強にして最後の海賊ブラック・バート

 1719年6月のうだるような午後のこと。ロンドンを出航した奴隷船プリンセス号は、西アフリカのアノマブ港沖に錨を下ろしていた。すると水平線の陽炎の中から、正体不明の船が姿を現した。甲板は、武器を手にした男たちであふれかえり、プリンセス号に接近すると黒い旗を掲げた。その正体は海賊、ハウエル・デイビス率いる荒くれ者たちだ。逆らって怒らせれば、間違いなく血の海になる。

「黒ひげ」ことエドワード・ティーチの沈没した旗艦から発見されたカノン砲。彼もまた、最も有名な海賊の一人だ。(ROBERT CLARK)
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 プリンセス号は降参し、海賊を船に迎え入れる覚悟を決めた。海賊たちはプリンセス号を隈なく物色し、黄金だけでなく、航海に必要な物資を洗いざらい奪い去る。銃、火薬、衣類、帆、大工道具、ロープ、羅針盤など、役に立ちそうなものは何でも略奪の対象だ。

 海賊たちはそこで人材も調達した。プリンセス号の船員の中には、進んで海賊に成り下がる連中もいた。一方で、海賊なんてまっぴらと誘いを断る乗組員もいた。背の高い37歳の三等航海士もその一人だった。だが彼の願いは聞き入れられず、一味に引きずり込まれた。

 ところが、その男には海賊としての天賦の才があったのだ。この6週間後にハウエル・デイビスが殺されると、海賊船の新たな船長になる。

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