写真集『wreath』(リース)、写真家とデザイナーに聞いてみた!

水中写真家、鍵井靖章さんに聞いてみた! 「『海ってこんな感じ』と思っているイメージ通りの光景が見られます」

ナショジオからは初の写真集となる「wreath」を出版した水中写真家、鍵井靖章(かぎいやすあき)さんにこの本への思いを語ってもらいました。

写真集『wreath』
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――写真集「wreath」は、鍵井さんがかつて暮らしていたモルディブの海を舞台にしています。この海は、ほかの海とどんなところが違うのですか。

 この海の良さは、魚の数がすごく多いことです。しかも、カラフルな小魚の群れから、マンタやジンベエザメといった大きな魚までが、同じエリアで共存しています。これは、モルディブの海の大きな特徴の一つです。

 子どもたちが海の中の絵を描くとき、一枚の絵の中にいろんな魚が一緒に泳いでいる様子を描き込むでしょう。それを写真で表現できるのが、モルディブの海ですね。映画「ファインディング・ニモ」を想像してもらうといいかもしれませんが、みんなが「海ってこんな感じ」と思っているイメージ通りの光景が、この海では見られるんです。

モルディブクマノミ、スカシテンジクダイ
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――本当にいろんな海の表情が見られて、ページをめくっていっても飽きることがありません。こんな幻想的な場所があるのなら、行ってみたくなるのですが、実際に行くとなると大変ではないですか。

 いえ。普通の人が行けないような秘境ではないですよ。ダイビングのライセンスをもっていれば、誰でも行けるような場所ばかりです。本書の冒頭に掲載した数枚の写真なんかは、シュノーケリングでも行くことができます。モルディブは水上コテージをはじめリゾート地として有名ですが、海の中にも想像を超えた世界、魚たちの楽園が広がっています。

 ただ同じ場所でも、人によってぜんぜん違う風景に見えるらしいです。以前、現地のダイビングガイドさんに「みんなにも、鍵井さんみたいな見方で海を見てほしい」と言っていただいたことがありました。

――難しい質問だとは思いますが、写真集の中からお気に入りの一枚を選ぶとすれば、どれでしょう。

 どれもお気に入りですが、たとえば前半にあるマンタ(オニイトマキエイ)の写真には思い入れがあります。この写真は、1月に撮影したばかりの新作です。マンタの写真って、マンタだけを写しているものが多いんですが、この写真のマンタはカラフルな小魚の群れと一緒に写っていて、海の豊かさが表れています。

オニイトマキエイ、ヨスジフエダイ
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 この場所は「クリーニングステーション」と呼ばれていて、マンタのような大型の魚が、ホンソメワケベラのような小魚に体を掃除してもらう岩場なんです。大事な場所なので、魚たちを驚かさないように、また着底して海底を傷つけないように注意を払いながら撮影しました。そのあいだ本当にしあわせな気分でした。何か祝福されているような気持ちになっていました。

――では、好きな魚を挙げるとすると、どうでしょうか。

 うーん。これも難しい質問ですね。たとえばイエローバックフィジュラーは、好きな魚のひとつです。名前の通り、背中が黄色い魚です。冒頭の写真のように浅くて明るい場所でもきれいな黄色が輝きますが、深い場所でも黄色が美しく映えます。中ほどに掲載している写真は水深20メートルくらいの深さなんですが、すごくきれいでしょう。

 ロウニンアジやカスミアジといった中型の肉食魚が、この魚を捕食しようと追いかけてくることがあります。そのときイエローバックフィジュラーの群れが一斉に動いて、ドンッという爆発音が水中に響き渡ります。この音は、本当にすごいですよ。

――イエローバックフィジュラーもそうですが、鍵井さんの写真にはどれも独特の色味が表現されていると思います。色についてのこだわりがあれば、お聞かせください。

 大学時代と卒業後の約3年間、花屋でアルバイトをしていました。花の色って不思議です。チューリップに「メントン」という種があって、はだ色のような淡い色なんです。最初はこの色が苦手だったんですが、しばらくすると好きになりました。微妙に心優しくしてくれる色だったのです。そういう環境で過ごしたことが、今の仕事にもつながっているのかもしれません。

――この写真集には、海の中の風景を撮影した写真を多く収録していて、その構図がとても気持ち良く感じます。構図についてはどうでしょう。

 水中写真は、陸上で撮る写真と同じようにはいきません。陸上なら手前に動物がいて、背景に遠くの山並みを配置するといったことがやりやすいと思うのですが、水中写真には透明度の問題があって、遠景がなかなか写らないのです。だからこそ逆に、より広がりのある絵を心がけてきたというのはあると思います。

 また水中写真は、生き物たちをきれいに表現するために、いかに近寄って撮るかということが重視される面があったと思います。しかし、僕は生き物の周りの余白にも気持ちをもっていきたいと思っています。その余裕をもつことが、生き物や環境に配慮することにつながるとも思っているんです。

――最後に、写真を見る人にどんなことを伝えたいと思って撮影しているのですか。

 水面を挟んだ上と下とでは、まったく別の世界が広がっているんですね。海の中では、いろんな偶然や奇跡に出会えます。本書の最後の方に、マンタがクマザサハナムロに突っ込んで幻想的な環を描いている写真を載せていますが、そんな光景に出会えるとは、海に出る前には思ってもいないわけです。陸の上にいるときには想像もしなかった光景が、海の中では当たり前のように目の前に広がります。その驚きを、皆さんにぜひ感じてほしいです!

鍵井靖章さんのブログ「鍵井天然水族館」はこちら

『wreath』

~美しい風景に囲まれて、心ゆくまでのんびり~
人気の水中写真家、鍵井靖章を育てた海。
たくさんの生き物たちが織りなす、
モルディブの海の中の美しい風景を、
独特の色彩と気持ちの良い構図でとらえた写真集です。

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