第62回 「ラザーニャ」はイタリアのマンマの味

 キリスト教ではキリストの復活祭の前日まで40日(日曜を除く)にわたって断食や節食を行う習慣がある。いまでこそ厳密に行う人は少ないようではあるが、その開始日となる「灰の水曜日」の前には、肉に別れを告げるための謝肉祭というお祭りが催される。2011年のこの日、ローマ近郊の町である男が警察に逮捕された。彼はコカインの取引で有罪判決を受けたにもかかわらず、10年にわたって逃亡生活を続けていたという。

 この男はなぜ捕まったのか。男の妻と娘を監視していた警察は謝肉祭の夜、娘が母の家からラザーニャを持って出かけたことを不審に思った。そこで後をつけたところ、娘の自宅にいた男を発見。彼は家族と謝肉祭を祝うために戻ってきたのだという。妻のラザーニャを食べるために。

 なんだか映画にでもなりそうな話だが、ラザーニャはその歴史も古い。そもそも、サンドロさんが言うようにラザーニャはパスタの一種で、幅の広い長方形のパスタのこと。つまり、ボロネーゼやベシャメルソースを挟んでいる生地がラザーニャであり、このパスタを使っている料理だからラザーニャと呼ばれている。

 パスタの定義は難しいのだが、一般的にはセモリナ粉を中心とした小麦粉を水、時に卵や牛乳を加えて練り、茹でたり煮たりして食べるものを総称していう。日本人もよく食べるマカロニやスパゲッティもパスタの一種だが、その起源は定かではない。しかし、ギリシャ文明が栄えた時期には小麦粉と水でつくったラガノンと呼ばれる細長い生地があった。これが古代ローマではラガヌムと呼ばれ、ラザーニャに発展したのではないかとも言われている。

 また紀元1世紀、料理研究家の先駆けとして知られる古代ローマ人のマルクス・ガウィウス・アピキウスが著したとされている世界最古の料理書、通称『アピキウスの料理書』には、ラガヌムと肉や魚を交互に重ねた現在のラザーニャによく似た料理も登場する。

アントニオさんのラザーニャは4層まで重ねているという
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