【番外編】ルーマニアのふっわふわドーナツ

ルーマニア版ドーナツ、パパナシ。この不思議な形が定番スタイル。「レストラン ルーマニア」では現地から取り寄せた黒サクランボジャムを使ったソースをかけている。
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 この1月、2020年に開催される東京五輪・パラリンピックで各国選手の事前合宿などを受け入れる自治体「ホストタウン」が一部決まった。全国44地域がホストタウンとして決定したなか、東京では武蔵野市がルーマニア、調布市がサウジアラビアの受け入れ先に。東京五輪先取り気分でどちらかの国のスイーツが食べられるお店はないかと探したところ、中野坂上にルーマニア料理店「トラディショナルレストラン ルーマニア」を発見! 早速、お店の扉を叩いた。

 店主は来日14年目になるルーマニア人ユリア・トゥーラさん、2003年にレストランをオープンした。母国にあるようなお店にしたいと、内装材から家具、コーヒーに添える袋入り砂糖まで東欧ルーマニアから取り寄せているという凝りよう。厨房で腕を振るうのも、もちろん同郷の料理人だ。

 ユリアさんが紹介してくれたのは、母国の人気菓子「パパナシ」。ルーマニアのフレッシュチーズ「ウルダ」やレモンの皮を生地に練り込み、上からジャムやサワークリームのソースをかけたドーナツだ。「手間がかかるので、現地では基本的にレストランで食べるお菓子です」と言う。

 ドーナツというと手軽なおやつというイメージがあったが、登場したのはケーキのように華やかな盛り付けをしたお菓子。穴あきドーナツの上に小さなボール型ドーナツが載り、赤いジャムとサワークリームのソースがたっぷりかかっている。「パパナシは地方によって作り方が違うんです。うちの店のパパナシは、私の出身地トランシルバニア地方のスタイルなんですよ」とユリアさん。トランシルバニア地方とはルーマニア中部に位置する、吸血鬼ドラキュラのモデルとなった君主の出身地として知られる地方だ。「この地方のパパナシは、生地がふっわふわなんです」。なんでも、南部の首都ブカレスト辺りのパパナシは生地がしっかりとした食感で、まるで別物であるらしい。

 「パパナシは揚げたてを食べなくちゃ」というユリアさんの言葉に急いで食べ始めたら、揚げたてドーナツの香ばしい香りが鼻をくすぐった。ほんわり温かい生地は噛む必要がないぐらいふわっと軽いのだけれど、外側はカリッとしていて2つの食感を楽しめる。生地にかかったジャムは酸味が立った黒サクランボジャムで、これがパパナシにぴったり。揚げ菓子なのにさっぱりとした味わいで、あっと言う間にお腹に収まった。

 「パパナシにかけるソースはイチゴジャムやチョコレートを使ったものもポピュラーですが、私が一番好きなのはサクランボなんです」とユリアさん。料理上手な彼女のお母さんは特別な日にパパナシを作ってくれたそうで、なかでも黒サクランボジャムをかけたものがユリアさんのお気に入りだったのだ。

 「サクランボはルーマニアの初夏を彩る果物。とても香り豊かでおいしいんです。5月頃から出回る白いサクランボに始まって、ピンク色、黒サクランボと季節の移り変わりとともに種類も変わるんですよ」とユリアさんは頬を紅潮させる。そんな故国の風景も、このお店の一皿に込められているのかもしれません。

(文=メレンダ千春)

トラディショナルレストラン ルーマニア
東京都中野区本町1-32-24
電話:03-5334-5341

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メレンダ千春

海外に行けば、どこを見ずとも行くのはスーパーのおやつ売り場という、激甘から激辛まで味の守備範囲は360度のライター。最初の異国のお菓子との出会いは、アメリカに住む遠い親戚のおじさんが日本を訪れる度にお土産にくれた、キラキラ光る水色の紙でキャンディーのように包装されたチョコレート。ミルクの味が濃くて、おいしかったな~。インパクトのあるおやつを求めて、日々邁進中。