【番外編】英国アップルパイの刺激的な味

「モーニングトン・クレセント」のアップルクランブルパイ。ブラムリーは煮崩れやすいので、ピューレではなく生リンゴを使った場合もほとんど形が残らないという。
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 人通りもまばらな東京・東麻布の街角に、月2回土曜日になると長い人の列が現れる場所がある。列の先にあるのは、英国伝統菓子専門店「モーニングトン・クレセント」だ。店主は英国人のステイシー・ウォードさん。この場所で料理教室を開くほか、日を限定して手作り菓子を販売している。

 10数年前に来日した彼女。日本に興味を持ったきっかけは5、6歳の頃に見た、日本の花見の様子を紹介するテレビ番組だった。咲き乱れるサクラの花を、家の裏庭にもあるリンゴの木の花だと勘違いした彼女。「日本人ってリンゴの木の下で“ピクニック”をするのね。私たちと一緒じゃない!」と親近感を抱いたという。

 家にあったリンゴは、「ブラムリー」という英国産の品種。英国のアップルパイ作りには欠かせない大ぶりの緑色のリンゴだ。アップルパイ用のリンゴとして日本でお馴染みの紅玉より、しっかりとした酸味がある。「英国の庭には、よくブラムリーが植えられています。秋になると収穫しきれないほどたくさんの実がなるので、道に転がっているほど。うちにも2本もあって、リンゴの季節には母と一緒にアップルパイを何度となく焼いたものです」とステイシーさんは振り返る。

 「モーニングトン・クレセント」でも、ブラムリーを使ったアップルパイは欠かせないラインナップのひとつ。ブラムリーは日本ではあまり見かけない品種だが、長野県小布施町が栽培に力を入れている。ステイシーさんの作るアップルパイは、砂糖とシナモンとひとかけのバターを合わせてブラムリーを煮込み、型に敷いたパイ生地にこれを流し込んで、上からさらに生地をかぶせて焼いたもの。この店では9月頃よりこのアップルパイが並ぶが、「日本でブラムリーが出回るのは12月頃までなので、生の果実を使ったアップルパイはその頃までしか用意できないんです」と言う。しまった!と思っていたら、「でも、冷凍保存したリンゴのピューレを使った『アップルクランブルパイ』はまだありますよ」と救いの一言。クランブルとは、小麦粉、砂糖、バターを合わせた生地をそぼろ状にしたもの。パイ生地にブラムリーのピューレを流し込み、その上にこのクランブルを載せたパイを作っているのだ。

 お店に行くと、件のアップルクランブルパイは片手の上に載るぐらい小ぶりだった。フォークを入れると艶のあるリンゴのピューレがのぞく。ピューレは青みを感じる酸味で、紅茶を飲んでも口の中にそのキリリとした味わいが残るぐらい。「英国人は舌に刺激がある味が好きなんです」というステイシーさんの言葉を思い出しながら、やみつきになりそうな刺激を味わったのでした。

(文=メレンダ千春)

モーニングトン・クレセント
東京都港区東麻布2-14-3
カサド並木101
電話:03-6441-0796
ホームページ:http://www.mornington-crescent.co.jp

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メレンダ千春

海外に行けば、どこを見ずとも行くのはスーパーのおやつ売り場という、激甘から激辛まで味の守備範囲は360度のライター。最初の異国のお菓子との出会いは、アメリカに住む遠い親戚のおじさんが日本を訪れる度にお土産にくれた、キラキラ光る水色の紙でキャンディーのように包装されたチョコレート。ミルクの味が濃くて、おいしかったな~。インパクトのあるおやつを求めて、日々邁進中。