第132回 葉を枯れさせて隠れるツノゼミ、ポリグリプタ

ポリグリプタツノゼミの1種(カメムシ目:ツノゼミ科:Smilinae亜科)
A treehopper, Polyglypta sp.
体長:約10 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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 今回は、前回とは別の種を紹介しながら、ポリグリプタ属のツノゼミの「奇妙なかたちの謎」について、少し掘り下げてみよう。

 ポリグリプタの成虫はいったい何に擬態しているのだろう? スッと細長く伸び、筋の入った体は、植物のタネに似ていると思われがちだ。ぼくも20年ほど前にポリグリプタに出会ってから数年前まで、たしかに植物のタネに擬態しているのかも・・・と思っていた。

 しかし、生態を観察し続けるなかで、植物のタネでなく、別のものに見えてきたのである。それにはいくつかの理由がある。まず、今回の主役である、おそらく新種のツノゼミ(最初と次の写真)をご覧いただきたい。

ポリグリプタツノゼミの1種(おそらく新種)。横から見たところ。ツノは黄色から白に黒で、翅は飴色。目が赤いのがわかる。これが飛ぶとアシナガバチの仲間のハチに見える。
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 近くの庭に、木々の間を伝って上るように生えているキク科の植物があるが、写真のツノゼミをよく見かけるのは、この植物の地上から3~4メートルほどのところだ(次の写真)。

見上げると上のほ~うにツノゼミを確認。矢印の黒っぽいのがお母さんツノゼミで、日の当たる葉の中央に赤っぽい幼虫たちがいる。
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 少し色づき、枯れ始めている葉の付け根あたりにお母さんツノゼミがいて(矢印)、中央の光が当たっているところに赤と黒の入ったクリーム色の幼虫たちがいる。

 近くから見ると、葉の付け根近くに黒ずんだ3本の太い葉脈があり、それと並ぶように黒っぽいお母さんがいる。そして葉の色づいた部分に幼虫たちが集まっている。両者とも葉に上手く溶け込んでいるようだ。

ポリグリプタのお母さんと子どもたち。葉脈の葉の付け根に近い部分が黒ずんで、シワシワになっている。ハシゴ使って登って撮影。
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 葉の付け根近く(基部)を顕微鏡で確認してみると、細い葉脈にも黒ずんだ部分があり、太い脈も細い脈も黒ずんだ箇所は傷つけられた痕に見えた。お母さんツノゼミがストローのような口(口吻)を使っておそらく「意図的」に葉脈を傷つけているのだろう。なぜ?

 傷つけられた葉は他の葉に比べ早く色づき始め、枯れたようになる。細長く傷つけられ黒ずんだ脈の部分は、成虫のツノゼミが隠れやすい場所となり、色づいた葉は幼虫たちが隠れやすい場所となる。視覚を頼りにする捕食者、たとえば鳥やスズメバチの仲間などからある程度身を守るのに役立つと、ぼくは考える。

 仮に葉を傷つけるのが「意図的」でないなら、お母さんツノゼミがわざわざ葉の基部で汁を吸い続ける(食事をし続ける)ことの説明がつかない。なぜたくさん周りにある鮮度の良い葉にお母さんと幼虫たちは移動しないのか?となる。

色づき枯れてきている葉の裏にはポリグリプタツノゼミがいる可能性が高い。これは上の写真とは別の葉で、傷つけられた付け根部分で折れ曲がり垂れ下がっていた。お母さんと幼虫たちがどこにいるかわかりますか?
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 ふだんは葉の裏で生活しているが、では飛んでいるときは?というと、なんとその姿はアシナガバチの仲間のハチにそっくり! この種が林縁で飛んでいるのをたまに見かけるが、黄色と黒の細長いボディーに飴色の翅で飛ばれるとハチに見えてしまう。このように、飛んでいないときの姿はまったく別ものだが「飛ぶと似る」タイプの擬態も自然界では珍しくない。

 その上、これまでポリグリプタツノゼミがタネのようにぽろっと落ちて死んだ振りをしているところは見たことがない。

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ポリグリプタツノゼミの1種(カメムシ目:ツノゼミ科:Smilinae亜科)
Treehoppers, Polyglypta sp.
枯れて落ちかかった葉の裏には、成虫になったばかりのポリグリプタが5匹いた。飛べない幼虫たちは葉が落ちてしまう前に違う葉へと移動するのでご安心を♪
体長:約10 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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