第147回 芸術の秋!葉っぱに泡の塔を造ったのは誰?

 ハバチは「原始的な形質を保っている」ハチの仲間で、その幼虫のほとんどが、もっぱら植物の葉を食べる。幼虫はガやチョウの幼虫に似ているが、足(腹脚)の数が多いことで見分けがつく。ぼくは峰の原高原でこれまでに7種ほどのハバチの幼虫を見てきているが(最後に2種紹介します)、周りに泡の塔が建っているのは初めてだ。

 幼虫を撮影しようとカメラを近づけると、幼虫はス~ッと体を横に倒して葉の裏側へと移動。裏側から近づくと、またス~ッと葉の表へ移動(笑)。慎重に近づかないと気付かれてしまう。でも、幼虫はその場で体の向きを変えるだけで、どうやら離れたくない様子。

葉の裏側から撮影。幼虫はちょうど中間、葉の横でじっとしてくれた。葉と幼虫の体を、光が通り抜ける。
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 泡の塔はこの幼虫たちが造り上げているはずで・・・でも、どうやって?

 なんと参加者の一人が、その瞬間をとらえていた! 幼虫が葉の表面に白い泡を吐き出し、塔状に仕上げていたのだ。自然を注意深く観察するたくさんの「目」があると頼もしい!

かじった葉に白い泡の塔を造り上げるサクツクリハバチの幼虫。撮影:Meiko Shibata
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白い泡状の物質を出して塔を造る。17秒間の作業を収めた11枚の写真を繋げた。アニメーションは、実際の作業の速度の約3倍。撮影:Meiko Shibata

 ところでこの幼虫、いったいどんな種類のハバチで、白い泡の塔にはどんな役割があるのか? フェイスブックに投稿して情報を募ったところ、Itaru Suzukiさんからのコメントで、サクツクリハバチのものであろうということを教えてもらった。泡の塔を並べて柵を作ることから「サクツクリ」なのだろう。今回見つけたのは、プリスティフォラ・プラティケルス(Pristiphora platycerus)という種のようだ。

サクツクリハバチPristiphora platycerus(ハチ目:ハバチ亜目:ハバチ科)の終齢幼虫と白い泡の塔の「柵」。幼虫が白い泡を葉の表面に吐き出しくっつけているところ。泡はスグに乾いて固まるように見える。幼虫自らの体にも、泡の破片が付いている。
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 泡の塔を触ってみると、軽くて柔らかく、少し粘着性があり、手にペタっとくっついた。粘着性があるということは、天敵である寄生蜂や狩り蜂、ヤドリバエなどを近くにとまらせない役割があると考えられる。

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指についた白い泡(左)。幼虫の頭の抜け殻(矢印)が泡にくっついている。おそらく脱皮をしたときのもの。その上のほうには、白いホコリのようなものもくっついている(右)。どちらの写真も、泡に粘着性があるのがわかる。

 別のサクツクリハバチ(Stauronematus compressicornis)の泡の成分を調べた論文によると、泡は16種ものタンパク質で構成されていて、20以上の酸が含まれているそうだ。その中には、抗菌活性を持つとされるラウリン酸や起泡性に富むミリスチン酸も含まれている。こうした成分を天敵が嫌がる可能性も高い。

 数日の間、繰り返し様子を見に行っていると、幼虫は1匹、また1匹と数が減っていき、泡の塔も減っていった。最後の1匹も、葉の端まで歩いてきたかと思うと、ぶら下がり、そのままポトッと地面に落ちた。この後、土の中のどこかでサナギになるのだろう。元気に育ってほしい。

ヤマナラシの葉の端にぶら下がるサクツクリハバチの幼虫。このあとスグに地面に落下した。葉の上にある黒いのは、この幼虫のウンチ。フンの栄養は土に還り、このヤマナラシの若木が育つための栄養の一部となるのだろう。
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 最後にハバチのおまけ、体勢や形態の美をどうぞ!

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