第145回 アリではありません、何でしょう?

アリではありません。
体長:約5 mm 撮影地:サラピキ、コスタリカ
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 コスタリカのカリブ海側にある熱帯雨林の低地に調査にでかけると、たまに見かける物体がある。これだ。

葉にくっついているフワフワしたスポンジ状の薄茶色の塊。大きさは5センチほど。
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 葉の裏にくっついた、5センチほどのフワフワしたスポンジ状の薄茶色の塊。表面にはトゲトゲした細かい凹凸がある。実はこれ、ビワハゴロモという昆虫の卵の塊(卵鞘、らんしょう)だ。薄茶色のスポンジ部はカバーのようなもので、中にたくさんの卵が入っている。

 ビワハゴロモは、カメムシ目のセミやハゴロモに近いグループ。熱帯地域に多く分布しており、体長が数センチになるものが多い(次回紹介する予定です)。ぼくは数年前まで、この卵の主は第7回で紹介したユカタンビワハゴロモだと思っていたが、論文を調べた結果、別のビワハゴロモ、ディアレウサ・イミタトリックス(Diareusa imitatrix)のものだとわかった。

 卵に寄生するハチなんかが出てくるとオモシロそうだと思い、この卵塊を採集して袋の中で飼育してみることにした。

 ところが、しばらくたったある日、この飼育袋の異変に気づいた。中にたくさんのアリがウジャウジャとわいているのだ。なんでアリが・・・?

ウジャウジャ、ワサワサ、前後左右にチョコチョコ。
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 いや、アリではない。
 翅のない寄生バチ?・・・それとも違う。

 そうだ、これはビワハゴロモの幼虫だ!

 ビワハゴロモの1齢幼虫の多くがアリに擬態していることを思い出した。その装いもさながら、ワサワサ、チョロチョロと動きまでアリそっくり。1カ所にたくさん集まっていると、余計にアリっぽい。

 体長は5ミリほどだが、頭の先が「カバ」の口のように膨らんでいる。ビワハゴロモ特有の突起物だ。SFの世界に登場しそうな、なんとも言えないロボットのような作りをしている。

横から見たところ。写真の右側が頭。頭部の複眼から先に、大きな膨らみがある。
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正面から見たところ。「カバの口」の辺りのロボット感が伝わってくる。後ろ脚が太くなっていて、ピョン!と跳ねるのに役立つ。
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 それでも後ろから見てみると、なるほど! アリに見えてしまう。

後ろから見たところ。腹部の先が少し割れているので、大きなアゴを持ち、おしりを上げた「イカツイ」アリに見えないことはない。
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 卵から孵ったばかりの赤ちゃん幼虫たちは、アリに擬態して群れていることで、捕食者たちから身を守っているのだろう。広大な熱帯雨林のジャングルの中、アリのように小さなこれらの命が、木の幹の適度な生活場所に定着するまでには、数知れない試練が待ち受けているに違いない。

ディアレウサ・イミタトリックス(カメムシ目:ビワハゴロモ科)
A planthopper, Diareusa imitatrix
成虫は、コケや着生植物がくっついている木々の幹にうまく溶け込んでいる。暗い森を歩いていてこれを見つけるのは、ほぼ不可能。見つけたのはMari Shirakawaさん(スゴイ!)、写真撮影レフ板協力はHiroyuki Kikukawaさんです。ありがとうございます。
体長:約30 mm 撮影地:サラピキ、コスタリカ
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西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html