第143回 朝からごちそう! ハナグマ「ピソちゃん」

ハナジロハナグマ(哺乳綱:ネコ目:アライグマ科:ハナグマ属)
White-nosed coati, Nasua narica, male
体長:約50 cm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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 6月、カナダからやって来た高校生のグループが、ここモンテベルデバイオロジカルステーションに宿泊していた。引率の先生はヤママユガやスズメガなどの大きなガが専門で、自然体験学習の一環として、毎晩のように灯火採集を行う。ステーションの本棟の周りに白いシーツを張り、500ワットほどもある強烈に明るい水銀灯を吊るして昆虫たちを集め、やってきた昆虫のことを学生たちに知ってもらうという段取りだ。

 ある夜、森は濃い霧に覆われ、朝になってもまだ霧が漂っていたときのことである。ぼくは、飼育中のカマキリの餌となるイエバエを採集しようと、本棟に向かった。本棟のダイニングの窓ガラスにイエバエがよくいるのだ。途中、1頭の若いオスのピソちゃん(ハナジロハナグマ)が、灯火採集の仕掛けのそばをうろうろしているのに出会った。床に顔を付けて何やらせわしなく動き回っている。

灯火採集の仕掛けてある場所に現れたピソちゃん。壁に張られた白いシーツと水銀灯(写真右上)が見える。
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 あ、光に集まった昆虫を食べているのかも!

 夜中の濃い霧で月が隠れたことや、水銀灯の明かりが霧で拡散されたことが原因で、他の日よりも多くの昆虫たちがやって来たのだろう。壁や柱、床に地面に、特にガがたくさん残っていた。

 よしよし、まだ昆虫を食べている。ぼくは10メートルほどの距離まで近づいて撮影を始めた。

 ピソちゃんは鼻をクンクンさせては、ガをパクパクと美味しそうに食べていく。飛び立とうとして翅をバタバタさせているガがいると、それに向かってタタタッと駆けてパクリ! その様子は愛嬌があって、笑顔にさせてくれる。

朝のごちそうにあずかるピソちゃん
飛び立つガを追いかけたり、ガのニオイを嗅いだり食べたり・・・

 今度は、壁やシーツに寄りかかり、2本足で立ちながら上のほうにいるガをムシャムシャ・・・

壁に張られたシーツに鼻と口を当てながらガをほおばるピソちゃん。
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 イスの下に潜り込んでパクパク! 両手(前足)でガを捕まえて口に持っていってパクッ!

両手(前足)でガを捕まえて、口に持っていくピソちゃん。
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 でも、ガに夢中になりながらも、ピソちゃんは、ときどきこちら(撮影者)や歩いている従業員のほうに目をやって、警戒もしていた(最初の写真)。そのへんは野生動物なのである。

 よく見ていると、白っぽいガには、あまり興味を示していないようだ。ハナジロハナグマは、あまり視力がよくないので、白があまりよく見えていないのかも?と最初は思ったが、黒っぽいガもニオイを嗅いで食べないときがあるし、床や柱では白い色はコントラストが出て見やすいはずだし・・・。だから、おそらく嗅覚を頼りに「味」や「毒性」を確かめて食べるか食べないかを判断しているのだろう。

ピソちゃんが去った灯火採集の現場。白っぽいガがシーツや床に残っているのがわかる。
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 シーツや床を見てみると、白いガが多く残っていた。これまでのぼくの経験では、白いガはアルカロイド(激しい毒性がある)系のニオイがするものが多いので、ピソちゃんもそれを感じとって食べないようにしている可能性が高い。

 しばらくして、向こうのほうから、ステーションマネージャーのマルビンさんと奥さんがやってきた。ピソちゃんは、その場をしぶしぶ退散した。

 朝からのごちそうは、満腹になったかな? 腹八分目だったかな?笑

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西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html