第116回 ツノゼミのお母さんはじっと卵を見守っていた

アルキズメ属のツノゼミ(カメムシ目:ツノゼミ科:ツノゼミ亜科)のメス
Female treehopper, Alchisme cf. grossa
枝を歩いているツノゼミと顔が合った。「こんにちは!」おそらくアルキズメ・グロッサという種だが、熱帯アメリカはツノゼミの多様性が高いので断定はできない。学名のところは慎重に「cf. = 要比較」と入れてある。
体長:約10 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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 3月半ば、一時帰国していた日本から、約2カ月ぶりにコスタリカのモンテベルデに戻ってきた。こちらは乾季の終盤で、気温が上がり始め、目にする昆虫たちの数も少しずつ増えつつある。

 今回は、去年の12月からラボの横の庭で観察していた、アルキズメ属のツノゼミを紹介しよう。アルキズメ属は中南米に分布、その多くは雲霧林などの山岳地帯に生息している。ツノゼミの中でも比較的大きな種(といっても1センチ程度)でツノ(頭の上からお尻にかけて伸びる)が大きい。上と左右に突き出る部分と、後方に細長く伸びるツノが特徴的なグループだ。

 上の写真のアルキズメと庭で出会ったのは、12月10日の雨の日。アクニストゥス・アルボレセンスというナス科の木の枝を歩いていた(上の写真)。これまでも何種かのナス科の木で、同じ種のツノゼミが生活しているのを見たことがある。メスが産卵場所を探しているのではないかと、ぼくはにらんだ。

 3日後、再び同じ木を見に行くと、ぼくの予想は当たっていた。枝の先のほうにある大きめの葉の裏で、アルキズメのツノゼミが卵を抱いてじっとしている(次の写真)。

2015年12月13日、葉の裏で葉脈に産み込まれた卵を抱くメス。おそらく数日間かけて、クリーム色の卵を1カ所に50個以上産んでいく。卵は半分ほどが植物の組織の中に埋め込まれていて、その表面は淡い茶色の薄い膜のようなもので覆われている。
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 それからぼくは毎日のようにこの木に足を運び、卵を抱くメスの様子をうかがった。1週間経っても、2週間経っても卵から幼虫が生まれてこない。卵が少しずつ大きく膨らんできて、色も黄色くなってきている(次の写真)。いったいどれだけの日数がかかるのだろう・・・。

 雨の日も、風の日も、晴れの日も、曇りの日もお母さんツノゼミは卵のそばから離れない。お母さんツノゼミは卵を抱いて守っている間、なにも食べないわけではない。どうやら卵と卵の間にある隙間にストローのような口を差し込んで、植物の汁を吸っているようだ。

2015年12月30日。卵を見守るお母さんツノゼミ。卵が黄色くなって、大きさも膨らんでいるようだ。葉をそっと裏返して撮影した。卵に寄生する小さなハチ、捕食者のカメムシやハエの幼虫などから卵を守っているのだろう。
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 そして、ついにその日はやってきた。産卵から1カ月以上経った1月16日、小さくて黄色い体に、赤い眼をした赤ちゃんたちが孵化し始めていた!

 ぼくは、レフ板(光を反射させる銀色の板)を使って、太陽光を葉の裏に当てながら写真を撮った。すると、お母さんツノゼミが急に勢いよく翅を羽ばたかせ始めた。「ブ~~~ン」(下の写真、動画もあります)

お母さんツノゼミが孵化する幼虫たちのそばで羽ばたいているところを後ろから撮影。1回のブ~ンが30秒も続くことがあった。
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 レフ板を外すと、ブ~ンという羽ばたきが収まる。最初はお母さんツノゼミがこちらを威嚇しているのかと思ったが、何回か光を当てたり外したりして観察するうちに、別の考えが浮かんできた。暑いから羽ばたいているのではないだろうか・・・?

 この日はよく晴れていた。そのうえレフ板からも光が当たるものだから、ツノゼミたちは暑かったのではないだろうか。少しでも涼ませてやるため、お母さんは生まれてくる赤ちゃんたちに風を送ってやっていたのではないかと思ったのだ。本当のところは、もっときちんとした実験をしないとわからないけれど。

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【動画】アルキズメツノゼミ(Alchisme cf. grossa)のお母さんの羽ばたき
卵から出てくる赤ちゃん幼虫たちを守ろうと、撮影者を威嚇しているのか? それとも風を送って日光の熱から守ろうとしているのか?
アルキズメツノゼミ(カメムシ目:ツノゼミ科:ツノゼミ亜科)のメス
Female treehopper, Alchisme cf. grossa
この木にはトゲはないが、ナス科の木々にはトゲのあるものが少なくない。そんな木々にいるときは、このツノゼミのトゲのようなツノが擬態効果を生むのだろう。
体長:約10 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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