第139回 ツノゼミの立派なツノが出てくる瞬間

 幼虫が、垂れ下がった葉の中央辺りへと移動し、じっとしていたかと思うと、モゾモゾと体全体を波打たせるように動かし始めた。続けて観察していると、頭の上の膨らんだ部分がさらに膨らみ、幼虫の殻が割れてツノがニョキニョキと出てきた・・・(動画をご覧ください。32倍速にしてあります)。

【動画】ヨツコブツノゼミの羽化
羽化の最初の方を撮影して、32倍速にして編集。飼育下でライトを当てて真上から撮影。

 羽化の様子を真横から見るとこんな感じだ。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
ヨツコブツノゼミの羽化の様子。飼育下でライトを当てて真横から撮影。

 この後、幼虫は脚を伸ばして自分の抜け殻につかまり、ツノを膨らませ、翅を伸ばしていく。色はしばらくの間、透明のきらきらシルバーだったが、だんだんと黒っぽくなっていき、体も硬くなっていった。

ツノのかたちの意味を考えてみた

 ところでヨツコブツノゼミはどうしてこんなツノをしているのだろう?

 一般にツノゼミのツノには、いくつかの役割があると考えられている。ひとつは体を保護する鎧(よろい)のような働き、もうひとつはコミュニケーションを取るために鳴き声(振動音)を増幅する働き、そして植物の一部や他の生きものに擬態するモノマネの働きがありそうだということだ。

 ほかにもヨツコブツノゼミならではの役割があるのだろうか。昆虫探偵ニシダがじっくり観察し、推理してみた。

 まず、思いついたのがアリと「会話」するためではないかということ。

 ヨツコブツノゼミの居場所をアリが訪れているのをたま~に見かける。アリが成虫のツノと向き合ったり、触れたりしているのだ。これを見て最初、アンテナのようなツノでアリとのコミュニケーションを図っているのかも?と推測した。アリも振動音を出してコミュニケーションを取ることが知られているからだ。

 しかし、ヨツコブツノゼミは常にアリと一緒にいるというわけではない。観察していると、ヨツコブツノゼミとアリとの関係は、他のツノゼミの種とアリたちとの関係ほど密接でない感じだ。

ヨツコブツノゼミの成虫と、そこに訪れていたアリ。
[画像のクリックで拡大表示]

 葉の裏にいるヨツコブツノゼミをさらにジ~ッと眺めていると、今度は別の考えが浮かんできた。上に突き出したツノがなんとなくアリに似ているというか、そんな雰囲気をかもしだしているかもと思い始めたのだ。

 緑の葉の裏にいるヨツコブツノゼミは、黒い影に見える。そのシルエットを見ているうち、ボディー部分とツノ部分がそれぞれ独立しているように感じはじめ、さらには小さな黒い昆虫(ボディー部分)にアリ(ツノ部分)が覆いかぶさっているか、たかっているかのようにも見えてきたのである。言わば、『タケコプター』のように飛びだしたツノの部分がアリで、ボディー部分が小さな黒っぽい昆虫というわけだ。

 ツノゼミの天敵、例えば鳥や捕食性の昆虫たちの多くは、アリやハチの「不快な味や攻撃性」を嫌がり避ける傾向がある。薄暗い森の中、葉の裏にいる小さな昆虫にアリが訪れているように見えるとなれば、天敵に襲われにくくなる。すなわち、アリがやって来ていなくても、やって来ているように見せかけられるということだ。しかもこのツノゼミが何匹か同じ葉にいれば、アリがたかっている効果が強調されるだろう。

 ツノの部分だけを観察すると、それほどアリには似ていないかもしれない。でも、アリはよく動き、体勢も色々と変える。このツノゼミと直接関係のないアリだって周辺でウロウロしている。なので、ツノは「ある程度」アリに似てさえいれば、ツノゼミは捕食されにくくなるとぼくは考えるのだ。 

 この仮説に対する実験や観察は行っていないので、科学的に証明できたわけではない。でも、こうした「気づき」をきっかけに、ツノゼミの不思議なかたちの研究が進んでいくといいと思う。ほんの数ミリの小さな昆虫たちだが、そこにはまだまだ知られていない大きな世界が広がっているのだから。

『ミラクル昆虫ワールド コスタリカ』 西田賢司

西田賢司さんの連載「コスタリカ昆虫中心生活」が本になりました!
スゴイ虫からヘンな虫、美しい虫まで、生物多様性の国コスタリカの魅力満載。

定価:1800円+税、128ページ、オールカラー

ナショジオストア アマゾン
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html