第135回 ポップアートなツノゼミ

アディペ・ゼブリナ(カメムシ目:ツノゼミ科:Smilinae亜科)
Treehoppers, Adippe zebrina
黒地に水玉模様が「はじける」ツノゼミ。色もオレンジやシルバーっぽい白と、ポップで鮮やかだ。
体長:約5 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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 今回は、ツノゼミの中でも、ポップアートのように「明るく、はじけた」アディペ・ゼブリナ(と最後にもう1種)をご覧いただこう。

 アディペ属は、中南米に分布していて、クスノキ科の植物でよく見かける。ツノは幅が狭めのヘルメット型で、表面はザラッとしている。多くの種は、今回紹介するアディペ・ゼブリナのように、黒地にオレンジや赤などのコントラストが強い模様を身にまとっている。警戒色とも言えるその派手さが、アディペ属の特徴のようだ。

クスノキ科のオコテア・モンテベルデンシス(Ocotea monteverdensis)の若木の幹先に2匹のアディペ・ゼブリナがいた。少し遠くからでも比較的目立つ。おそらく下がメスで上がオス。求愛中なのかもしれない。
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 このツノゼミの食草であるクスノキの仲間には、ぼくの好きなシナモンや月桂樹(ローレル)と言った香辛料となる木があるほか、防虫効果のある樟脳(しょうのう)を含む木もある。そうした木々の汁を吸っているということは、天敵が嫌がる強烈な成分を体内に蓄えている可能性が高い。だから、アディペ属のツノゼミは、幼虫を含め、派手な装いを身に着けることで、敵に警告を発しているのかもしれない。

羽化して間もないアディペ・ゼブリナの成虫を上から見たところ。ハート模様があるのがわかる。
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 さて、このツノゼミのメスはクスノキの若い茎の中に卵をまとめて埋め込み、その上にジッとして寄生バチなどの天敵から守る。卵からかえった小さな幼虫たちは、母親に見守られ、群れながら茎から汁を吸って育っていく。たまに幼虫たちが排泄する「オシッコ」(甘露)に、アリがやって来ているのを見かける。

アディペ・ゼブリナの群れ。脱皮中(明るいオレンジ色)の若齢幼虫に終齢幼虫、それに成虫が数匹いた。昼間は見なかった小さなアリたちが夜中やって来ていた。ストロボを焚いて撮影。
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アディペ・ゼブリナの成虫2匹。頭を下に向けてとまっていることが多い。茎の表面に見える白い点々は産み込まれた卵。
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 あるとき、メスが守っておらず、まだ孵化していない卵を見つけた。「寄生バチに寄生されているのかな~?」と思い、実体顕微鏡で卵の様子を確認してみることにした。すると、ツノゼミの卵として予想だにしなかった模様があるではないか! 

アディペ・ゼブリナの卵
Close-up photo of eggs of Adippe zebrina treehopper
茎に埋め込まれた卵を、実体顕微鏡を通して撮影してみた。幼虫が出てくる「蓋」の部分が細かい網目模様になっている。卵も「おしゃれ」な感じだ。
大きさ:約0.5 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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 卵の一部(幼虫が孵化してくる部分)が口を開けたようになっていて、網目になっている。これまでに幾種かのツノゼミの卵を観察してきたが、たいていは白い薄皮があるだけで、模様になっているものを見た記憶はない。その後、卵を飼育してみたところ、寄生バチは出てこず、小さなツノゼミの赤ちゃんたちが出てきた。寄生バチが出てくることを期待していたので残念だったが、この卵のデザインは、スゴく刺激をくれた。

 これからツノゼミの卵を見るときの視線が違ってくること間違いなし! また、今回の原稿を用意するに当たって、これまで撮った大量のツノゼミ写真を見直したところ、コスタリカの他の地域にはアディペ・ゼブリナにそっくりで似たような種がいる可能性が高いという感触をもった。詳しく調べてみる楽しみが増えた♪

アディペ・ゼブリナの終齢幼虫
A last instar nymph of Adippe zebrina treehopper
頭の前の方に2本のツノのような突起がある。幼虫期もオレンジと黒で、捕食者に対して「美味しくないよアピール」の警戒色をしている。
体長:約 5 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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アディペ属のツノゼミ(カメムシ目:ツノゼミ科:Smilinae亜科)の1種
Adippe cf. nigroruba treehoppers
標高2000~3000メートルに生息する高山性のツノゼミの終齢幼虫と成虫。ツノは赤と黒のコントラストが映える。アディペ・ニグロルバという種に似ているが、詳しく調べてみないとわからない。
体長:約 7 mm 撮影地:チリッポ国立公園、コスタリカ
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西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html