第134回 ぐるぐると渦を巻くアリの群れに出会った

マルセグンタイアリ(ハチ目:アリ科:グンタイアリ亜科)の1種
Army ants, Labidus sp. in ‘army ant spiral behavior’
時計回りに行進し続けるアリたちの一部を接写した。アリの専門家、ジャック・ロンジノ博士(Dr. Jack Longino)によると、未記載種(新種)のマルセグンタイアリの仲間とのことだ。
体長:3~4 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
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 新年明けましておめでとうございます! 熱帯に暮らす小さな昆虫たちの広い世界は、まだまだ知られていないことばかり。本年も『コスタリカ昆虫中心生活』の未知なる世界に、どうかお付き合いください。

 今回は、夜の昆虫探しを終え部屋に戻る途中で出会った、ある「不思議な空間」を紹介しよう。

 2016年12月のある日、夜10時ごろのことだ。雨がシトシト降り続き、時折強い風がビュー、ゴーッと森を駆け抜けるなか、ぼくは急ぎ足で家へと向かっていた。

 家の前まであと10歩ほどのところだった。「さあ早く寝よう!」とラボの前のコンクリートの道を通り過ぎようとしたとき、ん? 何か黒いものが・・・地面を動いているように見えた。

謎の黒い渦は、軒下の雨があまりかからない場所で見つかった(白い楕円の辺り)。
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 2~3歩戻って懐中電灯で照らしてみると、「なんじゃこりゃ!!」
 一気に目が覚めた。

マルセグンタイアリの「グンタイアリ渦行動」。高速で時計回りに走り続けているところ。中央には、「アリの山」。ストロボを焚いて撮影。
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 それは高速で渦を巻いているアリの塊だった。小さなグンタイアリの仲間のようで、そのハリケーンのような渦の中央にはアリでできた「山」がある。眺めていると、なぜか吸い込まれそうになってくる・・・まるで地面に現れた「小さなブラックホール」のようだ(実際にみたことはないが)。早速撮影するも、衝撃のあまりか、カメラを持つ手が震える。

マルセグンタイアリの「グンタイアリ渦行動」。渦の直径は約10センチ。キンヒバリ(小型のコオロギ類)の合唱や他の鳴く虫たちの声が響く中、照明を当てて真上から撮影。

 アリの中には、渦から出たり入ったりするものや、渦の外を見回っているようなものもいた。もしかして、女王アリが「アリの山」の中にいるのかもしれない・・・。

渦行動中央の「アリの山」の接写。アリたちが入り乱れるように絡まって固まっている。
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 女王がいるかどうか確かめるために、中央の「アリの山」を細い枯れ枝で崩してみることにした。渦がなくなってしまわないよう気にかけつつ、「山」になったアリを渦の方へ、そっとそっとかき出してみた。

 しかし、中央の山の中には女王らしきアリは見つからなかった。アリたちが女王に群がっているわけでもなさそうだ。

 その後もアリの渦は回転を続け、いったん崩れた「アリの山」は、またスグに形成され始めた。グンタイアリは視覚があまりよくなく、先行するアリのフェロモンを追うように移動する。それぞれのアリが前を行くアリを追って歩くうち、先頭のアリが最後尾のアリに追いついてしまい、周回行動につながるのかもしれない。

 数多くのアリが周回していれば、自然と中央のフェロモンが密になり、アリたちが中央で山のような塊になるのかもしれない。「山」の上を歩いては、また渦の中へと入るアリたちもいた。ネットの情報によると、このような行動はAnt mill(アント・ミル)と呼ばれているそうで、この渦行動に一度陥ってしまうと、死ぬまで走り続けるというが、実際はどうなのか?

 この「グンタイアリの渦行動」について、アリの専門家のジャック・ロンジノ博士は、「動画では見たことがあるが、実際に見たことがなく、どういった行動なのか具体的なところはわからない」と言う。

 ぼくがこの渦の「不思議な空間」に出会ったのは22時。観察していると、深夜0時を過ぎたころから、アリたちは渦があった周辺をバラバラにウロウロしはじめ、少しずつどこかへと消えていった。

 何がきっかけで渦は消えたのだろう。長時間の走行後にアリたちの体内環境に変化が起き、行動が変わった可能性も考えられるし、なんらか外部からの作用が働いて(たいてい野外では何かが起こる)、自然に渦行動が途絶えたという可能性もあるだろう。

 真相はまだわからないけれど、初体験の光景にとても興奮した夜だった。果たして、2017年は、どんなドキドキ、ワクワクが待ち受けているのだろう~

「グンタイアリの渦行動」の渦の一部を真上から接写してみた。大小のハタラキアリがいる。写真右側にアリの「山」がある。
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マルセグンタイアリの「ハリケーン」
Labidus army ant spiral ‘Hurricane’
停滞する台風のごとく、グルグルと回り続けるマルセグンタイアリの1種。
体長:3~4 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ
マルセグンタイアリの「ハリケーン」の接写
Close-up of Labidus army ant spiral ‘Hurricane’
体長:3~4 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ

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西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html