第7回:最新鋭のアルマ望遠鏡で見たヒミコ

 現代天文学の醍醐味は、一つの天体をX線や可視光、赤外線、電波といった、様々な波長の光で観測して、その正体にどんどん迫っていけることだ。ヒミコも例外ではなく、X線から電波までほとんどの波長で観測されてきた。しかし実際の研究に大きく役立ったデータといえば、可視光と近赤外線で観測されたデータだけだった(ヒミコの発見に使ったすばる望遠鏡やケック望遠鏡、そしてスピッツァー宇宙望遠鏡と、新しく撮られたハッブル宇宙望遠鏡のデータ)。それ以外の波長では、IRAM(ミリ波電波天文学研究所)で観測した電波のデータも含めて、ヒミコは検出されていない。いくらヒミコが特別な天体といっても、130億光年彼方と非常に遠いことから、見かけ上とても暗い。高い感度が実現できる可視光や近赤外線以外の波長でヒミコを検出するのは、やはり難しいのだ。

 そんな中でできるのは、第2のヒミコが存在するかどうかを調べることである。ヒミコを見つけた時と同じような観測を、ほかの天域でも行って、ヒミコに似た天体を探すのである。これによって、どのくらいヒミコが希少な天体なのか知ることができる。そこで私たちは、COSMOSと呼ばれるほかの天域*1に対して、すばる望遠鏡の主焦点カメラSuprime-Camを使った観測を進めた。しかし、観測した日の天気が悪かったために、期待通りのデータを取ることができなかった。何度も挑戦したが、やはり天候の悪い日が続き、計画していたデータが取れなかった。そのため、この研究は途中で止まってしまった。

*1 ろくぶんぎ座の中の天域。ちなみに、ヒミコがあるのはくじら座の中のSXDSと呼ばれる天域。

 ヒミコの研究に手詰まり感が漂っていたその頃、構想から20年近くの歳月を費やし、日米欧などが協力して建設を進めていた電波(ミリ波・サブミリ波)干渉計であるアルマ望遠鏡がついに稼働した。アルマ望遠鏡はこれまでの望遠鏡と比べてきわめて感度が良く、10~100分の1の明るさの天体まで検出できる。これなら電波でヒミコを捉えられるかもしれない。電波観測なら、可視光や近赤外線では見ることのできない冷たいガスやダストを調べられる。もしヒミコの内部にあるガスの動きが捉えられれば、ヒミコの正体に関する五つの可能性のうち、棄却された(1)と(2)を除いた三つ
 (3)衝突・合体中の銀河
 (4)コールドアクリーションと呼ばれる宇宙の大規模構造から降り注ぐガス雲
 (5)超新星爆発で温められたガスが銀河の外へ流れ出る銀河風
についてテストできる。

 2011年春、アルマ望遠鏡の初期科学運用として一部(16台)のアンテナを使った観測の公募が世界にアナウンスされた。東日本大震災の影響が研究にも現れている時期ではあったが、この機会を逃すわけにはいかない。アルマ望遠鏡によるヒミコ観測の計画を作り始めた。

アルマ望遠鏡。チリ共和国の標高5000メートルのアタカマ砂漠に建設された干渉計方式の電波望遠鏡。直径12メートル(一部、直径7メートル)のパラボラアンテナ66台からなる。建設途中の2011年から初期科学運用が開始され、2013年に完成式典が行われた。(写真: ESO/C. Malin
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