第2回 天の川銀河のブラックホール

テーマ:天の川銀河の中央に横たわる、巨大質量のブラックホール。
最初の発見:1970年代に天の川銀河の中心部の位置が初めて確認され、地図に書き込まれた。
画期的な発見:2002年、星の動きを観測していた天文学者たちは、その近隣にブラックホールが存在していることを確認した。
何が重要か:多くの銀河の心臓部には巨大質量のブラックホールがある。そのことからはブラックホールがどうしてできるのかという疑問の答えが多く得られる。

天の川銀河の心臓部にあるブラックホールを囲む荒々しい領域。エックス線はエネルギー量によって色分けされていて、赤が最も弱く、青になるほど強くなる。ブラックホールそのものは、明るい中心部分の一番上に横たわっていて、近隣にある巨星が放出した高温ガスの層の中に埋もれている。チャンドラX線観測衛星で撮影した画像。(NASA/CXC/MIT/F. Baganoff, R. Shcherbakov et al.)
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 天の川銀河の中心はいったいどうなっているのか。地球から2万6000光年ほど離れた、いて座の方角にあり、可視光でも、赤外線でも、その位置を目で直接見て確かめることはできない。その方角と地球との間には高密度の星雲や星間塵(せいかんじん)を含んだ渦巻腕が横たわり、銀河の中心には年老いた赤や黄色の星が無数にひしめいていて、視界を遮っているのだ。いうなれば、天の川銀河全体をまとめているのは、こうした恒星たちの重力だ。だとしたら、銀河の中心部分は何がまとめているのだろう。銀河の中心部周辺にある不思議な天体と、そこで起こっている激しいプロセスの正体がやっとわかり始めたのは、1990年代になってからのことだ。

 天の川銀河をはじめとする銀河は、中心部に物質が高密度で集まり、巨大な固まりを作っている重力によって形をなしているのだと天文学者たちはある時期、予測していた。中心部にある恒星は、楕円軌道を描いている。その軌道は銀河の平面に対して大きく傾いており、銀河円盤の上にある恒星の軌道と比べると、あまり秩序立ってはいない。重なり合った軌道の効果が累積し、中心部は平たいボールのようになっている。しかし、見るからに混然としていているこの中心部分の領域にある天体はすべて、この中心部分の中でも比較的小さい領域を中心に、公転する軌道をもっているようだった。

 1974年にこの領域を初めて電波で探査したときには、いて座Aという名で広く知られている、電波発生源のグループを発見した。そのうちの一つ、いて座Aイーストは泡状の高温ガスで、おそらく膨張している超新星の残骸だと考えられている。一方、いて座Aウエストは、銀河の中心部分に向かって落下しつつあるガスでできた見事な三つの渦巻腕をもち、その形状は二つの高密度の巨星星団からの放射によって作られていた。どちらも比較的短時間の「スターバースト」からできたと考えられている。このスターバーストは、天の川銀河の中心からほんの100光年ほどしか離れていない位置で、独特の条件がそろったときにガスが大規模に圧縮して起こったと考えられている。

 いて座Aイーストの中心部にはほかに、第三のコンパクトな電波発生源、いて座A*(スター)が埋もれている。この天体はまた別の大質量星団の中に横たわっていた。どうやらそのあたりがちょうど天の川銀河の心臓部であり、なおかつ天の川銀河のど真ん中に横たわる巨大質量のブラックホールがある位置でもあるらしかった。

目に見えない心臓部

 いわゆる活動銀河の中心部分に高密度・大質量の天体があることは、1950年代には予測されていた。これがブラックホールだと天文学者たちが考えるようになったのは、1970年代になってからだ。当時ですら、ブラックホールがこれほどまでに巨大に成長するメカニズムを疑う声は多かった。

 1980年代になってようやく、天の川銀河の中心部に近いところを通る恒星の軌跡を詳しく求めてみると、核がどれだけコンパクトであるかがわかった。そのため、天文学者たちは天の川銀河の中心部分にも、これと似たようなモンスターが潜んでいるのではないかと考えるようになった。

 いて座A*が実際、とてつもなく大きなブラックホールであることを裏づける有力な証拠は、1998年に得られた。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のアンドレア・ゲッズが、ハワイ島のマウナケアにある巨大なケック望遠鏡を使って、天の川銀河の中心部に極めて近い位置にある動きの速い恒星を観測した。くっついて見えるほど近い距離にある恒星を個別に解像し、その動きを求める新しい技術が開発されていた。ゲッズはそれを利用して、どの星も中央にあるとおぼしき目に見えない天体の周囲を最大秒速1万2000kmで巡っていることを突き止めた。この天体は小さく見積もっても太陽質量の370万倍あり、ほんの数光年ほどの幅の領域に集まっていた。

 2002年、チリにある超大型望遠鏡(VLT)を使った測定によって、ブラックホールの質量を巡る謎は解決に向けて大きく動いた。銀河の中心にあるブラックホールから17光時間(光の速度で17時間)または120天文単位という狭い範囲の周囲を、S2という名の恒星が15年の軌道周期で移動しているのを、ドイツのマックス・プランク地球外生物研究所に所属するライナー・ショーデルが中心となったチームが発見した。その後10年の間にこの恒星の動きに関する観測はさらに行われ、ブラックホールの質量はだいたい431万±38万太陽質量の範囲にまで絞り込まれた。