動物写真家 福田幸広さんが捉えた、アナグマの貴重映像

 動物写真家の福田幸広さん(著書に「動物たちのしあわせの瞬間」「うさぎ島 会いに行けるしあわせ動物」など)が、ニホンアナグマの貴重な映像をとらえた。福田さんは、山口市の生息地でアナグマの研究を20年以上続けてきた田中浩さん(県立山口博物館 動物担当職員、博士(理学))にレクチャーを受け、その生態を観察するため、共同で繁殖巣穴の前にカメラを設置していた。

熊本地震で動物たちも緊急避難

 4月に発生した熊本地震の際、揺れに驚いたメスが、赤ちゃんをくわえて巣穴から運び出し、別の場所に引っ越していく様子を撮影した。場所は、震源から百数十キロ程離れた山口市内の山中。山口市では、4月14日21時26分に発生した前震(マグニチュード6.7)の際に震度3、16日午前1時25分の本震(同7.3)では震度4の揺れを記録している。地震の少ない山口では震度4でも大きな揺れと感じたという。地震に遭遇した野生動物がどういう行動を取るかを記録した、非常に貴重な映像だ。

本震の翌日、メスが赤ちゃんをくわえて巣穴から運び出し、別の場所に引っ越していく。(撮影:福田幸広)

 ニホンアナグマは人里近くの森から深い森が広がっている深山まで、本州、四国、九州に広く生息している。山口県では人里近くの森にも生息しているが、主に夜行性で人の目に触れることが少ないことや、タヌキと誤認され地元でもその存在はあまり知られていない。

 アナグマを撮影する方法はいくつかある。福田さんによると、一般的な一眼レフカメラを自動撮影装置と連結して静止画を撮る方法や、暗視動画の撮影が可能なトラップカメラを使う方法などがあるという。山口市の撮影では、繁殖時に使用頻度の高い巣穴の前にある樹木の幹に、動物の熱を感知して動画や静止画を記録できる自動撮影ビデオカメラ(トラップカメラ)を固定し、アナグマが巣穴から出入りする様子を長期にわたり撮影している。

 アナグマの巣穴周辺での日常的な動きを追跡することで、出産、交尾、子育て、冬眠など生活の様子がわかる。グルーミング(体の手入れ)やマーキング(縄張りを示す行為)などの行動や、個体間の関係、巣材を取り込んだり掘り返したりする巣穴の維持管理などの状況も把握できる。未解明な部分の多いアナグマの観察には膨大な時間がかかる。

「通常アナグマは昼間は巣内で休息し、夜間活動しますが、3~5月の出産・子育ての時期は昼間採食に出かけ、夜間は巣内にいることが多いです。このときはちょうど子育ての時期で、巣の中にいたときに地震が起こったため、撮影できた映像です。もし巣の外にいたら、地震直後にどういう行動を取ったかはわからなかったでしょう」(田中さん)

独り立ちした息子も巣に戻ってきた

 映像からは、次のような様子が見て取れる。まず本震直後の4月16日、午前1時26分にメスが巣穴から出るのが確認された。その2時間後、普段は生活を共にしない子どものオス(推定2~3才)が巣を訪れ、母をいたわるかのような行動が記録された。そして翌17日、メスは生後30日前後(推定)の赤ちゃんを連れて別の巣穴へ引っ越した。赤ちゃんは3頭いて、メスが1頭ずつくわえて運んだ。1頭の引っ越しにかかった時間は3分弱。そう遠くない場所に移動したようだ。

前震の直後、アナグマのメスが巣穴から出てきた。(撮影:福田幸広)
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 撮影した福田さんは、アナグマの一連の行動を次のように見ている。「14日から揺れが続いていたことを考えれば、アナグマの母親は少しの間、巣の異変を我慢していたのではないでしょうか。16日になっても、揺れが続いたことで避難を決断したのかもしれません。母親が赤ちゃんをどのようにくわえればよいのか、戸惑った様子も見て取れます」

 田中さんによると、赤ちゃんを連れての引っ越しは、生後2カ月以上たってから行われることが多い。生後1カ月程度で移動した例はまれであり、地震の影響によるものだと考えられるという。

「通常、アナグマが巣穴から出てくるときには、出入り口で外の様子をうかがうように顔だけ出して警戒します。出てきたときにはクンクンと鼻先を突き上げ、周囲のにおいをかいだ後、毛づくろいを行います。それに対して地震直後のメスは、慌てたようにスッと出てきたように思います。その後、あたりの様子を確かめるように、しばらくじっとたたずんでいました。こうした一連の行動は、通常では見られません」(田中さん)

 また、映像には、独り立ちした息子と思われる個体が本震後に巣へやって来て、親子でスキンシップを取っている様子も映し出されている。「本震のあとに若いオスが巣穴を訪れたのは偶然ではなく、母親らを心配して訪ねてきたという印象を受けます」(田中さん)。福田さんも同じ意見だ。「推測の域を出ませんが、家族間の思いやりなどがあるのかもしれないと思わせる行動です。独り立ち後も、巣へ戻って母を見舞うことがあるとすれば、動物の感情について考察できる映像です」

本震のあと、息子と思われる個体(画面内の大型の個体)が本震後に巣へやって来て、親子でスキンシップを取っている。(撮影:福田幸広)

動物たちのしあわせの瞬間(とき)
BORN TO BE HAPPY

価格:本体3,200円+税
福田幸広 著
サイズ:220mm×297mm
248ページ、ソフトカバー

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