好奇心旺盛で社会性に富むイルカは、その進化の過程で大きく複雑な脳を発達させてきた。ここ10年ほどの間に水中録音機でイルカの発する高周波音を記録できるようになり、数年前にはそれらを解析できるアルゴリズムが登場した。イルカのコミュニケーションを解き明かそうとする科学者たちの挑戦は今、新たな段階を迎えつつある。

たとえば、イルカが発する声のなかで、特定の意味をもつものが少なくとも1種類はあることが明らかになっている。イルカは1頭ごとに異なる「シグネチャー・ホイッスル」で互いを識別しているのだ。イルカは自分を表すホイッスル音を幼いうちに創り出し、生涯にわたって使い続けると考えられている。イルカ同士が出合うと、シグネチャー・ホイッスルを鳴き交わしてあいさつする。そうして認識した相手のことは、その後何十年も記憶しているようだ。個体を識別する“名前”をもつ動物は、ヒトとイルカしか知られていない。

シグネチャー・ホイッスルはイルカが水中で発する音のほんの一部にすぎない。イルカのもつ多数のレパートリーのうち、シグネチャー・ホイッスルだけが意味をもつ音などということがありうるだろうか。イルカたちが互いを識別する名前をもちながら、海中にある物を意味する記号をもたないという可能性はどれほどあるだろう。

いつの日か、人間が彼らと「会話」できる日は来るのだろうか。

イルカの大きな脳と知性/イルカとヒトの脳の違い/イルカと話せる翻訳機?
イルカと語り合う夢/エコーロケーション(反響定位)の仕組/イルカの行動

※ナショナルジオグラフィック日本版 2015年5月号掲載記事