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学校で祈りを捧げる男の子。2013年、ボリビア、コロニア・エル・ブレアル。(PHOTOGRAPH BY JORDI BUSQUÉ)

南米の宗教共同体、現代文明を排したこだわり生活 写真18点

2018.03.06
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 12年前の霧の夜、写真家のジョルディ・ブスケ氏は、幻を見たのかと思った。ボリビア東部の低地でバスを待っていると、ふいに暗闇から複数の人影が現れた。背の高いその集団は、カウボーイハットにオーバーオール、または裾の長いワンピースを着て、音もなくブスケ氏の前を通り過ぎて行った。翌朝、この不思議な体験について尋ねてみると、彼らはメノナイトだと教えられた。規律と平和主義、そして集団農業を重んじるキリスト教の教派である。(参考記事:「車窓の少女、カナダ」

 スペイン、バルセロナ出身のブスケ氏は、それまでメノナイトという言葉を聞いたことすらなかったが、興味が湧いて調べてみることにした。それから10年をかけて、メノナイトの居留区20カ所を訪ね歩いた。

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自宅の前で写真撮影に応じたメノナイトの一家。2006年、ボリビア、デュランゴ・コロニー。(PHOTOGRAPH BY JORDI BUSQUÉ)

「今の時代、テレビや映画で見た社会習慣が広がって、文化は世界中どこへ行っても似たり寄ったりになってしまっています」とブスケ氏は語る。しかし、メノナイトは現代の便利なものをほとんど拒否し、文化が同化するのを避け、外の社会とのつながりを断ち、祖先が生まれたヨーロッパの伝統と言語を維持している。(参考記事:「ハッザ族 太古の暮らしを守る」

 16世紀のオランダとドイツが発祥のメノナイトは、自分たちの規律に従って生活する自由と耕作できる土地を求めてヨーロッパを移住して回り、やがて新世界へ到達した。その後、カナダや米国、メキシコが“世俗的な義務教育”を導入すると、彼らは南へ南へと下っていき、現在では、ボリビアにはおよそ6万人のメノナイトが根を下ろしている。

 ボリビアは、熟練した農民としてメノナイトを歓迎し、教育や福祉、自治体、紛争解決、財産所有の面で自治権を認めた。

 ブスケ氏は、歩いてメノナイトの居留区を訪ねて回った。寝袋を持参し、夜は星の下で眠った。ほぼ全ての居留区で、写真は禁止されていた。最初の頃、カメラを取り出そうとしたブスケ氏に、人々はまるで銃でも出てくるかのような反応を示したという。そんな調子だったので、人々の信頼を得るまでには、忍耐と強い意志を必要とした。彼らの仕事も手伝ったが、トラクターの事故に遭って危うく手と命まで失いそうになったこともあった。普段の生活を邪魔しないよう、各居留区につき数枚の写真しか撮らなかった。

 そうやって慎重に撮影することは、カメラ電池の節約にもなる。メノナイトの家には電気が通っていないので、これは重要なことだった。

 家族が増え、少女が大人になっていく過程も見た。出産や葬式もあった。そうするうちに、「一世代を丸ごと追跡取材して、彼らがどのように変化していくかを見たいと思うようになりました」と語る。

 ボリビアのメノナイトはかなり保守的だが、ブスケ氏はそれぞれの居留区がそれぞれのペースで変化していくのを目にした。(参考記事:「アマゾニア 21世紀の暮らし」

「私たちは些細な違いだと思っていても、彼らにとっては大変重要なことだったりします」。例えば、彼らの使うトラクターにしても、一部の居留区はゴム製のタイヤを嫌い、鉄の車輪がついた古いモデルにこだわる。ゴムのタイヤがあれば町まで出かけることができるが、鉄の車輪は畑でしか使うことができない。

 仕事のやり方は旧式でも、メノナイトは地域経済の活性化に貢献している。彼らの育てた大豆やヒマワリなどの農作物は多国籍企業に買い取られ、乳製品は地元で人気が高い。居留区に近い町では、メノナイトにとって必要な製品を店でそろえている。「店には、彼らが好むカウボーイハットや、女性が服を作るための布地を売っています。彼らが宿泊できるよう現代的なアメニティを排除したホテルまであります」と、ブスケ氏は言う。

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就寝前、外でおしゃべりに花を咲かせるメノナイトの女性たち。電気は禁止されているため、空の星がはっきりと見える。2013年、ボリビア、コロニア・オリエンテ。(PHOTOGRAPH BY JORDI BUSQUÉ)

 メノナイトと外の世界とのつながりは経済的な交流がほとんどだが、そのなかでもメノナイトから私たちが学ぶことはあるだろうし、その逆もまたあるだろうとブスケ氏は考える。

「居留区の中はとても居心地がよく、穏やかな気分で過ごせました。テレビもWi-Fiもなく、文明の利器から切り離され、朝は鶏の鳴き声や鳥のさえずりで目覚め、それほどストレスを感じることもありません。とはいえ、メノナイトは往々にして、自分の家のフェンスを越えた向こうで何が起こっているのか気づいていないことがあります。私たちの世界とメノナイトの世界のどこか中間あたりに、ちょうどいい妥協点があるように思います」(参考記事:「アボリジニ 祖先の道をたどる」

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文=Laurence Butet-Roch/写真=Jordi Busqué/訳=ルーバー荒井ハンナ

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