Photo Stories撮影ストーリー

2016年3月11日、自宅跡地でろうそくをともし、隣人たちと亡き人をしのぶ。震災の日と同じように雪が降るなか、津波に遭った父のレンズで撮影した。(Photograph by Mayumi Suzuki)

震災から7年 遺された家族の記憶

2018.02.27
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

東日本大震災から7年たつが、いまだ心の傷が癒えない人も多い。鈴木麻弓は、津波で両親を亡くした当事者ならではの表現方法で、家族の喪失や死との向き合い方を問い続ける。(この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2018年3月号「写真は語る」に掲載されたものです)

 東日本大震災。宮城県女川町の自宅で写真館を営んでいた両親は、あの日、津波の犠牲になった。震災の2週間後に故郷へ戻った私は、津波に流され、暗室部分だけが残った自宅の周辺で、がれきの中から父が使っていたカメラや写真を見つけた。拾い集めることで、確かにそこに写真館があったのだと実感でき、少しだけ幸せな気持ちになれた。だが、神奈川のアパートに持ち帰ってみると、その油を含んだ泥の臭いは、津波を生々しく思い起こさせるものでしかなく、見ていると余計につらくなってしまう。私は遺品を入れた箱を閉じ、物置にしまい込んだ。

がれきの中から見つかった写真。1982年に父が撮ったもので、背景のれんが色の壁で、 かろうじて自宅の前であることがわかった。左から母、姉、半分消えかけた私がいる。 泥がこびりつき、変色していた部分は、水で洗おうとすると白く削られ、画像が失われた。(Photograph by Mayumi Suzuki)

 そして震災から5年を前にした冬になった。この間、被災地の現状を伝えようと多くの写真家が女川にもやって来た。だが、地元の人にとってそれは、時に故郷が消費されているようにも感じられてしまう。私はずっと、当事者だからこそ語れる表現方法はないかと、模索し続けていた。そんなとき、5年もの間、目を背けてきたあの箱のことを思い出した。

 そっと開けてみると、父の視点が息づいているかのようなスナップ写真が現れた。幼い頃の私や、今はなき写真館が写っている。写真は家族の記憶そのものだった。だが、津波によって画像は傷つき、消えかけている。それは家族を失った現実に向き合えず、無理やり消そうとしていた私の記憶と重なった。写真を修復し、家族が存在した証しとなるような新たな作品を提示できないか。私のなかに、何かがひらめくのを感じた。

 箱の中には父が使っていた大判カメラやレンズもあった。砂が入り込み、さびてシャッターは動かなくなったが、光にかざすと向こう側が見えた。レンズはいわば父の目だ。これを自分のカメラに装着して撮ったらどんな世界が写るだろう。私は好奇心に駆られ、父のレンズとともに女川の町を歩いた。

避難場所の高台へ続く遊歩道が、ぽつんと残されていた。父のレンズでのぞいてみると、それはまるで天国へ続く階段のように見えた。復興計画の下、女川では新たな宅地が次々と造成されている。変わりゆく町を、死者たちはどう見ているのだろう。(Photograph by Mayumi Suzuki)

 壊れたレンズで撮るには日中は明る過ぎるため、日没前にピントを合わせ、誰もいない場所で暗くなるのを待つ。頬を突き刺すような冷たい風が吹くなか、レンズをのぞきながら父と会話をしているような錯覚に陥った。こうして撮った写真はぼんやりとしているが、彼岸の世界のようでもあり、死者たちが変わりゆく町を眺めているようにも感じられた。

女川町石浜。827人の町民が津波に流され、いまだ見つからない人も多い。残された者は海を見ながら、もう一度会えたらと、心のなかでつぶやいている。せめて魂だけでも戻ってくることを願いながら、夕暮れ時の穏やかな波と対話をした。(Photograph by Mayumi Suzuki)

 津波に遭った写真を修復し、父のレンズで写真を撮り、時には心の傷を埋めるように2枚の写真を重ね合わせることで、私は記憶を取り戻していった。それは同時に、写真館を営み、人々の思い出を写真で残したいと生きてきた父の遺志を、がれきの中から復元する作業でもあった。その遺志を継ぎ、写真家として生きるという意志を、私はようやく示すことができた。

 震災から7年。町は復興しつつあるが、人々の心の復興はどうだろう。残された私たちは、記憶をたどり、亡き人々ともう一度会いたいと願いながら、少しずつ心の傷を癒やしている。

父が撮った写真を修復し、父のレンズで撮ったモノクロ写真に重ね合わせたコラージュ作品。林の木々に刻まれた津波の傷痕は、幼い頃の写真についた傷痕と似ていた。こうして新たな作品を生みながら、心の痛みと向き合おうとしている。(Photograph by Mayumi Suzuki)

写真家、鈴木麻弓氏の紹介ページはこちら

ナショナル ジオグラフィック日本版2018年3月号

鈴木麻弓氏が撮影した写真を「写真は語る」に収録。その他、鳥の渡りの特集や、枯れていく世界の湖のレポートなどを掲載しています。

文・写真=鈴木麻弓

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Photo Stories 一覧へ