Photo Stories撮影ストーリー

午後10時、レインボーブリッジ越しに東京の夜景を望む。引き潮の時間を事前に調べ、あらわになった岩の上に自らが立ってセルフタイマーで撮影した。中央に見える東京タワーは、来日して最初に訪れた思い出の場所だ。(Photograph by Danny Dungo)

トーキョー・デイズ 第2のふるさとの瞬間 10

2018.01.26
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フィリピン出身のダニー・ドゥンゴが、子どもの頃からあこがれていた東京に暮らし始めたのは20年ほど前。第2のふるさとの魅力を世界に伝えたいと写真を撮り続ける。

 東京で暮らして20年以上がたつ。この大都会に26歳で初めてやって来たとき、ついに夢がかなったと、うれしかったのを覚えている。

 私はフィリピンのサンパブロという地方都市で生まれ育った。子どもの頃に日本製のテレビアニメを夢中で見るうちに、日本は私の憧れの地になった。フィリピンでは、より豊かな暮らしをしたいと、国外で働く人が大勢いる。子ども心に私も外国での暮らしを夢見た。私の場合、目指す国はもちろん、日本だった。

午後7時すぎ、列車から吐き出された通勤客が、品川駅のホームを川に変える。通勤ラッシュの混雑した列車を自らも利用していたという写真家のドゥンゴは「混んでいても乗らないわけにはいきません。慣れるしかないですよ」と言う。(Photograph by Danny Dungo)

 チャンスが訪れたのは、フィリピンにあるトヨタの工場で組立工をしていたときだ。東京で暮らしていたフィリピン人女性と知り合い、結婚することになったのだ。3度目の申請でようやく長期滞在ビザが発給され、私の東京生活は始まった。

 すべてが新鮮で、期待以上だった。私の国では雨期と乾期しかないが、ここでは春夏秋冬と四つの特徴的な季節がある。忙しない繁華街のすぐ近くに緑に包まれた公園があって自然を感じられる。近代的で巨大なビル群があるかと思えば、歴史を刻んだ優美な建造物も残っている。

春:井の頭恩賜公園が桜色に染まった。枝に咲き誇る花、水面を彩る花びら、花見用の青や緑のシートを1枚の写真に収めようと、ドローンを飛ばした(2014年撮影)。(Photograph by Danny Dungo)
夏:鉄塔から延びる電線が多摩川をまたぐ。電力でなく脚力を頼りに、女性が自転車で横切った。(Photograph by Danny Dungo)
秋:新宿御苑に800本ほどあるカエデのなかで、ドゥンゴが一番好きな木。「手向山」という品種で、弓なりの枝と深い切れ込みのある葉が特徴。かがみ込んで見上げると、秋色の洞窟の中にいるようだった。(Photograph by Danny Dungo)
冬:雪の中、東京駅へ急ぐ。歴史ある駅舎と静かに降る雪はきっとお似合いだと考えていたからだ。(Photograph by Danny Dungo)

 そして何より、私を驚かせたのは東京の人々だった。親切で、誠実で、礼儀正しい。マンションの廊下ですれ違えば、それほど親しくなくても「おはようございます」とあいさつを交わすし、カラオケバーでは見知らぬ者同士が声を合わせて歌う。私は不注意にも東京で財布を2度落としたことがあるが、2度とも無事に戻ってきた。どれもフィリピンではありそうもないことだ。

 東京の写真を撮り始めたのは、こうした驚きを伝えたいという思いからだった。写真を正式に勉強したわけではないし、大田区のプラスチック加工会社でプログラマーとして働いているので、撮影に使える時間も限られている。でも、アウトサイダーである自分にしか切り取れない東京の姿があるはずだと信じて、撮影を続けてきた。

東京を代表する繁華街である銀座を、どのように撮れば自分らしい写真ができるのか?ドゥンゴにはあるアイデアがあった。雨上がりの銀座だ。水たまりに映った街並みと行き交う人々が銀座をさらに輝かせる。(Photograph by Danny Dungo)
忙しない大都会で見つけた静けさ。外国人観光客も多く訪れる明治神宮にも、こんな瞬間がある。(Photography by Danny Dungo)

 そんな思いで撮った写真が思いもよらないチャンスをもたらしてくれた。ナショナル ジオグラフィックの写真コミュニティ「Your Shot」に投稿した写真が編集者の目に留まり、本誌や書籍に掲載されたり、韓国での写真ワークショップに招かれたりしたのだ。

 私の3人の子どもは東京で生まれ育った。日本語はペラペラだが、私と妻が使うタガログ語はあまり話せない。東京は、彼らにとって故郷であり、私にとっては第2の故郷だ。考えてみれば、人生の半分近くを、この大都会で過ごしてきた。東京には、まだたくさんの物語が隠れているに違いない。これからも、そんな物語を見つけ出していきたい。

*ダニー・ドゥンゴ氏の話を日本版編集部がまとめた。

新橋とお台場を結ぶ「ゆりかもめ」。先頭車両から見える景色に子どもたちは釘づけだ。(Photograph by Danny Dungo)
原宿のファッションビルの入口は、東京のトレンドを映し出す万華鏡。変化の激しさも大都会の魅力の一つだ。(Photograph by Danny Dungo)

ナショナル ジオグラフィック日本版2018年2月号

ダニー・ドゥンゴ氏が撮影した東京の写真を「写真は語る」に収録。その他、善と悪の科学や鳥の知能などの特集を掲載しています。

写真・話=ダニー・ドゥンゴ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Photo Stories 一覧へ