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共同体の敷地内にある池で、服を脱いで水浴びを始めたダニエルさん、ジョンさん、ステファニーさん。社会と切り離されたこの場所では、時間がはるかにゆっくりと流れる。昼間は数々の作業に追われるが、夜はゆったりとくつろぎながら、仲間との時間を楽しむ。(PHOTOGRAPH BY SARAH RICE)

森の生活共同体、平等を重んじるのどかな楽園 写真17点

2017.08.08
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 現代社会に暮らしていると、共同体に属しているという感覚は薄れがちだ。しかし、米南東部のバージニア州には、平等主義という価値観を重んじ、自然の中で共同生活を送る人々がいる。

 写真家のサラ・ライス氏が初めてこの共同体を題材に取り上げようと思ったのは、2011年のことだった。「修道院へ入るなど、住み慣れた一般社会を離れる重大決心をした人々が作る共同体はどんなものだろうと、興味を持ちました」と、ライス氏はナショナル ジオグラフィックに語る。(参考記事:「女人禁制、ギリシャ・アトス山の修道士たちの生活(写真家 中西裕人)」

ステファニーさんは、自然に立ち帰り、農業と持続可能な生き方について学ぶために共同体に加わったと話す。ここでカモのヒナを育て、食用に処理する方法を学んだ。(PHOTOGRAPH BY SARAH RICE)
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 当初は2週間のフォト・エッセイのつもりで始まったものが、思いがけず6年もの長期プロジェクトへと発展した。彼らの懐深くまで入り、素朴な暮らしをありのままにとらえた彼女の作品を目にすると、畑の耕作や動物の解体処理、ヤギの乳搾りといった日々の作業が、生存のための深遠なる儀式のように見えてくる。彼らの質素でシンプルな生きざまが、崇高さをまとってくるのだ。

「ここには、魔法のような何か特別なものがあります」と、ライス氏は語る。「実際にその場所へ行ってみると、何かが違うことがはっきりとわかります。一歩引いて、全てを考え直さなければなりません。または、これまで思ってもみなかったことについて、初めて考えをめぐらせるようになります」。年月を経て、ライス氏は共同体のありようが変わるのを目の当たりにしてきた。新たに共同体に加わる人、去る人、恋愛、結婚、誕生、すべてがこの小さな社会を構成する要素となっている。

ブレイデンさん(左)とオースティンさんは、一緒に共同体を訪れ、夏の間だけの予定で滞在していたが、ここへやってきては去って行った他の多くの人々同様、彼らの予定も変わった。多くの一時滞在者が、共同体を去った後もつながりを維持し、時折ここへ戻ってくる。(PHOTOGRAPH BY SARAH RICE)
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 1993年に創設された共同体に上下の階層はなく、物事は全員で話し合って決められる。共同体の所有する約30ヘクタールの土地には、遮るもののない広大な野原、なだらかな丘、池、そして林が広がる。長い加入手続きを経て共同体に加わった人々は、のどかな楽園と、誰もが平等に意見を出すことのできる社会を享受する。「普段暮らしている社会は、ある一定の法則のもとで成り立っています。それを全て崩し、全てのものに疑問を呈し、見直し、再構築する過程を見ているようで、とても興味深いです」と、ライス氏は語る。(参考記事:「森の教えにしたがい暮らす、小さな生活共同体 写真14点」

 ほとんどの住人は20~30代で、それぞれ共同体にやってくる理由は異なる。だが、人と地球を本質から尊重するという強い価値観のもとで全員が結びついている。「人々は、資本主義に失望してここへやってきます」と、ライス氏。共同体は、植物の種を販売し、さらに土地で採れるもので自給自足生活を営む。「互いに尊重し合い、土地を尊重する。それがここでは明確に見て取れます。でも、何よりも彼らは個人を大切にします」

農場のゴミを燃やす焚火の明かりに照らされ、リラックスするイングリッドさん。(PHOTOGRAPH BY SARAH RICE)
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 ここでは、時間がゆったりと流れる。労働はきついが、住人たちは好奇心を抱いたものを何でも探求することが奨励されている。ある女性は、七面鳥とカモの飼育と解体法を学び、ある者は畑に雨水をためる方法を学んだ。どんな案でも、「ばかばかしい」と言われることはない。全ての案は大切に育まれ、支持される。「自由が与えられると、人はどんな突拍子もないプロジェクトを考えつくのか、見ていると面白いです」と、ライス氏はいう。ある住人は、年に一度の共同体設立記念日に、「ヤギのサーカス」を披露した。純粋に娯楽のために、台をいくつも並べて、その上でヤギを歩かせたのだ。

 一般社会とこの共同体の違いを感じるのは、その仕組みだけではない。ここの人々は、別の次元に存在しているように感じる。「住人同士の関わり合い方、土地への向き合い方だけでなく、この空間で体を動かしている彼らの姿を見ていると、何か物理的な違いを感じます」

娘のタルーラちゃんに授乳するフォックスさんと、その横でタルーラちゃんと遊ぶバードドッグさん。フォックスさんは、近くにある別の共同体の住人であるトラウトさんと、この共同体で結婚し、両方の共同体を行き来しながら生活している。バードドッグさんは、タルーラちゃんと多くの時間を共に過ごす「プライマリー」と呼ばれる役割を担っている。(PHOTOGRAPH BY SARAH RICE)
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 プロジェクトが始まったばかりの頃、ライス氏は共同体の敷地を出て町へ行く住人たちを実験的に撮影してみたが、すぐにやめてしまった。「あの敷地の外では、物語が存在しないのだということに気付いたのです」

 プロジェクトのタイトルは、ウェンデル・ベリーの詩を引用して『What We Need Is Here(われらの必要とするものはここにある)』とした。ある日、ライス氏が敷地内の森を散策していたときに、この一文が頭に浮かんだという。「われら」とは、共同体を指すとともに、彼女自身のことも指している。「私は写真を通して『つながり』を伝えたいという思いがありましたが、あの空間では、自分は部外者だとも感じていました。そして、気づいたのです。このプロジェクトは彼らのことであると同時に、私自身写真の世界を探求し、広げることができる場所でもあるのだと。それは彼らが七面鳥の育て方を学ぶのと何ら変わりはありません。それに思い至った瞬間、この土地が私にとっても大切なものになったのです」(参考記事:「27年一度も人と接触せず、ある森の「隠者」の真相」

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