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カザフスタン、ウシュトベの駅で軍事パレードを眺める女性兵士。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL VINCE KIM)

中央アジアに強制移住させられた朝鮮人の消えゆく文化 写真16点

2017.12.05
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 1860年代、帝政ロシアは、住む人のほとんどいない極東の沿海地域を入植地として開放し、極貧状態にあった朝鮮半島北部の農民たちの移住を積極的に受け入れた。

 移住者たちは、祖国が日本の侵略に苦しめられ、1910年には同国に併合される一方で、ひっそりと繁栄を果たしていた。しかし1937年、ソビエトと日本の国境紛争が悪化すると、スターリンは朝鮮人が日本のスパイとなることを恐れて、彼らを極東からソ連内のカザフスタン、ウズベキスタンへと強制的に移住させ、そこで集団農場を営ませることを決めた。

 幾万もの朝鮮人が、ある日突然、荷物をまとめるよう命じられ、窓のない家畜輸送列車に押し込められた。シベリアの厳しい冬に約6500キロを移動する旅は過酷なものだった。土地を追われた人々はやがて、約束された建材も現金の援助も、決してやってこないことを悟った。昔からずっと米を作って暮らしてきた農民たちにとっては、中央アジアの乾燥した土地や遊牧の文化に順応することも容易ではなかった。

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「私はこれまで、強制移住を生き延びた何人もの人たちに出会ってきましたが、その誰もが、移住のこともその理由もまったくわかっていなかったと口を揃えます」。そう語るマイケル・ヴィンス・キム氏は、中央アジアに移住させられた朝鮮人(高麗人)の写真を2014年から撮影してきた。「餓死した人もいました。列車の事故もありました。病気で亡くなった人もいます」(参考記事:「核の亡霊――世界の核実験の4分の1が行われた土地は今 写真24点」

 言語学を学ぶ学生だったキム氏は、学位論文のためのリサーチをする中で、高麗語(コリョマル)と呼ばれる、ロシアに住む朝鮮民族が使用する独特の方言と出会った。高麗語は、ロシア語と朝鮮北東部の方言が混ざりあった珍しい言葉で、その起源は10世紀まで遡る。「これははるか昔の形を残している方言であり、過去を覗き見ることのできる窓のようなものです」とキム氏は言う。

 しかしながら、数十年にわたる強制的な同化により、中央アジアに住む朝鮮人の大半が、今ではロシア語を母国語とするようになっている。朝鮮戦争後、北朝鮮も韓国も、それぞれの言語の標準化を進めたことで、高麗語の起源は消え去ってしまった。

ソンオク・ジー氏(92歳)は、13歳のときにウラジオストクから強制移住させられ、その後すぐに両親を失った。多くの子供たちと同じように、彼女もカザフスタン人の家族に引き取られ、そこで育まれた堅い絆を今も大切にしている。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL VINCE KIM)
カザフスタンのウシュトベで暮らす、土地を追われた朝鮮人とその息子。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL VINCE KIM)

 高麗語を話す人々の子孫は、1990年代以前は主に北朝鮮の人々と交流を持っていた。しかしソ連崩壊後、韓国のポップカルチャーが瞬く間に大流行したことで、事情は大きく変化した。現在、中央アジアにある朝鮮語学校で教えている教師の大半は韓国人だ。朝鮮半島分断以前から存在する高麗語はじきに、古い世代と共に消えていくだろう。(参考記事:「日常か虚飾か、写真と動画で見る北朝鮮の生活」

「現代の言葉を学ぶことは、彼ら独自の方言を失うことを意味します」とキム氏は言う。彼はしかし、高麗語の運命をさほど憂慮しているわけではない。キム氏の願いは、彼の写真が、消えゆく方言と語られることのなかった歴史を記録する一助となることであり、高麗語を復活させようという思いはないという。

 韓国出身の両親を持つキム氏は、アルゼンチンで育ち、韓国語はあまり流暢ではない。「カザフスタンでもウズベキスタンでも、私の言葉の方が、現地を訪れた韓国人のものよりもずっとわかりやすいと言われました」

カザフスタン、ウシュトベのボストベヒルにある墓地の倒れた十字架。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL VINCE KIM)

「私の目的は、過去を感傷的に振り返ることでは決してありません。私は世界の人々に、物事が移り変わるとはどういうことか、環境がどう文化を変えるのかを見せたいのです」とキム氏は言う。「文化を博物館の収蔵品のように保存しておきたくはありません」

 キム氏の写真がとらえた中央アジアに生きる朝鮮人の姿には、結果として、彼と被写体となった人々が共有する感情が詩的に表現されている――それは簡単には消え去ることのない、故郷を失ったというアイデンティティだ。(参考記事:「【動画】見たことのないリアル平壌」


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文=Ye Ming/写真=Michael Vince Kim/訳=北村京子

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