Photo Stories撮影ストーリー

オーストラリアのノーザンテリトリーで捕獲されたイリエワニの頭部。(PHOTOGRAPH BY TREVOR BECK FROST)

ワニを殺してワニを守る、矛盾抱えるワニ猟に密着

2017.09.07
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「とてつもなく危険です」と、写真家のトレバー・フォレスト氏は、自身が体験したワニ猟について語る。「写真撮影に集中しながらも、頭や手が食いちぎられないよう注意しなければなりません。大変な作業です」

 ナショナル ジオグラフィックが支援する写真家でもあるフロスト氏は、オーストラリア北部で3年間にわたってイリエワニの猟を記録してきた。この地域では、1971年に巨大なイリエワニの数が絶滅寸前まで減少したが、最近では回復し、ノーザンテリトリーだけで現在10万頭が生息している。

ワニを捕ってワニを守る

 そのあまりの回復ぶりに、今度は人間が危険を感じるようになり、駆除を求める声が一部で上がっている。(参考記事:「イリエワニ、ノーザンテリトリーで少年を襲う」

体長4.5メートル、体重およそ680キロのオスのイリエワニ。両脇に立つロジャー・マシューズさん(左)とアーロン・ロッドウェルさんは、このワニをオーストラリアのノーザンテリトリー、ミクジンバレーで合法的に仕留めた。(PHOTOGRAPH BY TREVOR BECK FROST)
[画像のクリックで拡大表示]

 ノーザンテリトリー政府は人々の不安を和らげるため、毎年数を制限して狩猟を認めることにした。ハンターがワニを捕獲することで収入が得られるようになれば、同時にワニを維持する動機にもなる。フロスト氏によると、体長4メートル強のワニのなめし革は、最高1万ドルの価値があるという。また、頭骨にも3000ドルもの値が付く。(参考記事:「写真:コロンビアのワニ牧場、無数のワニが次々と水槽へ」

「金になるなら、守られる」という考え方は、世界中のあらゆる状況で試みられてきたが、その多くは失敗し、保護すべき動物の密猟が増えるという結果に終わっている。しかし、長年の現地取材の経験から、オーストラリアのイリエワニに限っていえば、このアプローチはうまく行っていると、フロスト氏は確信している。(参考記事:「ゾウを殺してゾウを保護するという矛盾」

 ワニのハンターになるには、免許が必要だ。免許証には、狩ることのできるワニの大きさが記載されている。ハンターは猟と捕殺の様子を動画に撮影し、当局に提出しなければならない。フロスト氏によれば、人道的基準に従って猟が行われているかどうかを確認するためだという。

水面に姿を現すイリエワニ。オーストラリア北部。(PHOTOGRAPH BY TREVOR BECK FROST)
[画像のクリックで拡大表示]

忘れられないワニとの格闘

 フロスト氏は、取材中最も印象に残った猟について語ってくれた。フロスト氏が密着していたハンターの元へ、あるアボリジニの地主から連絡が入った。敷地内で妻が大型ワニに襲われそうになったと言う。(参考記事:「アボリジニ 祖先の道をたどる」

 そこでハンターとフロスト氏は夜間、4メートルのアルミ製ボートに乗ってワニを探しに出かけた。ひとりがボートを操縦し、もうひとりが船首に立ってサーチライトを左右に動かす。ワニの目は光を反射するので、サーチライトが当たればすぐにわかる。

 やがて、暗闇にワニの目が浮かび上がった。ボートから目までの距離から判断して、相当な大きさであることがわかった。相手からこちらが見えないようワニの目にライトを当て続け、ボートを近づけていった。そしてワニの首の後ろに銛を撃ち込み、戦いの火ぶたは切られた。

小さなボートに乗り、銛を使ってワニを捕るロジャー・マシューズさん(左)とアーロン・ロッドウェルさん。(PHOTOGRAPH BY TREVOR BECK FROST)
[画像のクリックで拡大表示]

「ハンターは、暴れるワニがおとなしくなるまで、銛とつながったリールを必死につかんでいた。まるで踊っているみたいでした」と、フロスト氏。(参考記事:「【動画】ワニに襲われるヌーをカバが「救助」」

 巨大なワニは力も強い。リールは最大まで引っ張られ、ボートまでも引きずられた。「ものすごい勢いで引っ張られました」。そうして2時間。ワニの体力はようやく衰え始め、水面に顔を出して弱々しい音を出すと、また潜っていった。

 ボートは、顎に縄をかけられる距離まで接近することができた。ハンターは、射殺する前にワニの顎を粘着テープで縛らなければならない。

 突然、ワニがボートの横腹にかみつき、のたうち回った。ボートは危うく転覆しそうになった。「座れ!」ハンターの声が飛ぶ。「私はカメラを2台首にかけていましたが、慌てて船底に身を伏せました」と、フロスト氏。

 やがてワニは力尽き、顎を縛ることに成功した。その後、拳銃で脳幹を撃つと、ワニは即死した。岸へ戻ったのは、午前2時だった。(参考記事:「【動画】ワニと遊びたくなったカバの子、結末は…」

「死のカゴ」と呼ばれるアクリル製の筒に入り、水の中に下ろされる2人の観光客。そこへ体長5メートル、体重900キロのイリエワニが、紐でつるされた鶏肉におびき寄せられてやってくる。(PHOTOGRAPH BY TREVOR BECK FROST)
[画像のクリックで拡大表示]

自分はハンターにはなれない

 仕留めたワニは、体長が5メートル近くあった。

 フロスト氏は、銃や狩猟とは無縁の環境で育った。自分はハンターにはなれないと感じている。動物が生きるために必死で戦い、最後には敗北する姿を見て、辛くはなかったかと聞いてみた。

「辛かったですよ、とても。何よりも辛かったのは、あのワニが80歳くらいだったろうということです。私の祖母と同じくらい。第2次世界大戦の時代も経験しているでしょう。たくさんのことを見てきたと思います」(参考記事:「毛皮ブーム再来の陰で」

次ページ:オーストラリアのワニ猟の写真をもっと見る 残り20点

オーストラリア、ノーザンテリトリーの荒野。(PHOTOGRAPH BY TREVOR BECK FROST)
[画像のクリックで拡大表示]
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Photo Stories 一覧へ