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ルオシュイ村に住むナジュ・ドルマさん(73)とラクオ・ドルマさん(66)。モソ族の伝統衣装に身を包んでいる。(PHOTOGRAPH BY KAROLIN KLÜPPEL)

最後の母系社会、威厳たたえるモソ族女性たち 写真15点

2017.08.22
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ヒマラヤに近い中国の高地に、最後の母系社会と言われるモソ族が暮らしている。時代の変化の中で古い伝統を守ろうとする民族を、写真家が記録した。

 中国の四川省と雲南省の境、標高約2700メートルに位置する湖、瀘沽湖(ルーグー湖)。この湖のほとりに「世界最後の母系社会」として知られる、モソ族の人々が暮らしている。

 彼らは伝統的に、母系の血統を守り、「走婚」と呼ばれる通い婚のならわしを続けてきた。女性は自分の希望次第で伴侶を選ぶことも、替えることもできる。男性に頼るより、女性の主体性を重視する仕組みだ。

アサ・ヌジャさん(69)。何世代にもわたり、彼女のような女性たちがモソ族の家々を率い、財産や家名の継承に責任を負ってきた。子どもたちは母親と共に暮らし、母親は気持ち次第で伴侶を替えることができる。男性が現在の配偶者を訪ねてよいのは夜だけだ。この通い婚の伝統は「走婚」と呼ばれる。(PHOTOGRAPH BY KAROLIN KLÜPPEL)
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 ある意味、驚くほど「現代的」な価値観を持った人々だが、その独自の社会構造が注目を浴び、今や大勢の観光客や調査目的の人類学者たちがこの地を訪れている。

 そうした各方面からの関心の中心にいるのが女性たち自身だ。文化の衰退が大きな脅威となって久しいが、彼女らは静かな威厳をたたえつつ伝統を守ってきた。だが、そうした力強さが、この20年で徐々に崩れつつある。

 世界の伝統的な民族が直面する問題だが、観光から利益を得るには代償が付き物だ。モソ族が観光客を受け入れ始めたことで、その文化は少しずつ衰退している。時間をかけてモソ族を記録したドイツの写真家カロリン・クレッペル氏は、ナショナル ジオグラフィックに対し「多くの家が葛藤を抱えています」と話す。「観光で収益を得られれば、生活は楽になります。ですが、住民たちは近年の変化をとても悲しんでもいるのです」

モソ族にとって、古い木造の舟は今も大事な交通手段だ。瀘沽湖では、モーターボートは水を汚すという理由で許可されない。この湖は地元の民話にも不可欠だ。モソ族の信仰「ダバ」によると、母なる女神「ゲム」が近くの山に住んでおり、恋をした精霊に拒絶された時に流した涙で瀘沽湖ができたという。(PHOTOGRAPH BY KAROLIN KLÜPPEL)
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 モソ族の若者たちは、漢民族との同化が進んでいる。彼らの多くが部族から出て結婚したり、仕事を探そうと大都市に移ったりするからだ。政府からの支援もほとんどないため、文化を守る役目は老いた女性たちに降りかかっている。「文化の一部をなす彼女たちは、強く、印象的で、威厳に満ちています。そこにとても感動しました」とクレッペル氏は語る。

 観光向けの宣伝が蔓延するなかで、クレッペル氏が撮影した情感あふれる肖像写真は、もっと別の深い真実を追い求めている。氏の写真は彼女らの生き方を単純化も分析もせず、むしろ変わらない強さを描き出す。「村の生活では、年配の女性が家族にあらゆる指示を出しており、非常に存在感がありました」とクレッペル氏。「私が一緒にいたある女性は、娘1人と息子2人、そして孫が2人いましたが、彼女が一番よく働いていました」

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モソ文化の伝統的な家財道具。(PHOTOGRAPHS BY KAROLIN KLÜPPEL)

 クレッペル氏が会った女性家長たちは、「たいてい、とても楽しくて活発」であり、よく知るドイツの文化との違いを感じたという。「80歳の女性が、私にはとても持てないような物を運んでいるのを見ました」とクレッペル氏。「彼女たちの体には力がみなぎっています。肉体的な強さは、実は体の使い方次第だと気が付きました。ここの女性たちは男性より強いのですから!」

 女性が仕事の主導権を持つこと自体、世界的に見て珍しいことだが、モソ族の文化の中でおそらく最も珍しく、異質なものとして語られることが多いのが、「走婚」(通い婚)の仕組みだ。モソ族の伝統では、女性たちの伴侶は夜に訪れるだけだ。彼ら男性は、子どもの養育にほとんど関わらない。モソ族の子どもは一生を母親の一家と共に暮らし、したがって女性が一家の長になる。これを進歩的なフェミニズムととらえるか、選り好みの激しい男性蔑視と考えるかは、意見の分かれるところだ。

イシ村のサダ・ドルマさん(77)。「何年か前は、ここイシ村にたくさんの観光客が来ました。美しい洞窟があったからです。でも2年前、中国政府が洞窟のすぐ上に空港を建てると、洞窟は危なすぎて入れなくなり、観光客も途絶えました」(PHOTOGRAPH BY KAROLIN KLÜPPEL)
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「漢民族の社会では、仕事がステイタスであり、女性のパートナー選びもそれに左右されます」とクレッペル氏。「モソ族にとって、パートナー選びは純粋に心、愛情、そして情熱を感じるかどうかの問題です。もう愛情を感じなくなれば関係を終えることができ、別に大騒ぎにはなりません。落ち着かない気持ちの方が強くなったら、一緒にいる必要はないと考えるのです」

 クレッペル氏は、合計3カ月をモソ族と共に過ごし、250以上の家を訪れた。毎日の決まったリズムにも、互いへの敬意をとても大切にするやり方にも次第に慣れた。女性の社会的地位の向上が世界的な議題となっている今、まさに女性が統べる文化が確実に衰えているのは、あまりにも皮肉に見える。

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