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霊と交信し、たばこの煙とハーブを使って患者の膝を治療するシャーマンのエドワルド・グイディスさん。(PHOTOGRAPH BY MERIDITH KOHUT, NATIONAL GEOGRAPHIC)

シャーマンに頼る病人はなぜ増えた? 南米シャーマン信仰と医療危機

2017.07.10
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南米ベネズエラで、病の治療をシャーマンに求める人々が増えている。背景にあるのは、この国が抱える貧困や医療の危機だ。特別レポート第1回は、病に苦しみ、シャーマンに頼る人々を取材した。

 悪化していく乳がんを何とか治したい――南米ベネズエラに暮らす女性ヤスマリー・ディアスさんは、3人の子どもを車の荷台に乗せ、郊外の街サモラへ向かう悪路を走った。急な山道を登って到着したのは、乾かした泥と木の枝で作った小屋。オレンジの木に囲まれた祭壇の前で、ディアスさんはシャーマンに出会った。強力な霊に呼び掛け、彼女の体から病を追い払ってくれる伝統的な治療師だ。

霊的治療師のエドワルド・グイディスさんが、エメレジルド・ウルティアという人物の霊と交信し、ヤスマリー・ディアスさんの治療を行う。家事労働者のディアスさんは乳がんと診断され、地元の公立病院で1年間治療を待ち続けた。(PHOTOGRAPH BY MERIDITH KOHUT, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 しきたりに従い、ディアスさんは何も敷いていない土の上に横たわった。周囲には火をともしたろうそくが置かれ、白いチョークで地面に複雑な模様が描かれた。ディアスさんが目を閉じる。葉巻の煙が立ち込める中、上半身裸で、色とりどりのビーズやイノシシの牙を首から下げたシャーマン、エドワルド・グイディスさんは、彼女を見下ろし、大きな声で祈り始めた。

 ベネズエラには、女神マリア・リオンサをあおぐ民間信仰がある。治療師グイディスさんは、聖人や霊たちがいる神殿に声を届け、何十年も前に亡くなったエメレジルドという年老いた男性の霊を自分の体に降ろしてもらい、ディアスさんのがんを治そうとしている。(参考記事:「【写真】女神の霊を呼び出す儀式」

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ベネズエラの医療危機

 28歳のディアスさん以外にも、霊的な治療師のもとに集まってくるベネズエラ人は今や数千人に上る。背景には、この国の医療システムの危機がある。ウゴ・チャベス前大統領による放漫な社会主義改革を受けて、国の経済全体が崩壊し、広い範囲で医薬品不足が起こり、公立病院は機能しなくなっているのである。

 ベネズエラで製造されている医薬品の量はごくわずかだ。慢性的な薬不足の大きな要因は、政府が国際為替管理のために導入した政策にある。外国から薬を買うには、薬局や個人は政府の許可が必要で、許可はめったに下りない。

 ベネズエラ医薬品連合は、基本的な医薬品の85%以上がないか、ほとんど見つからないと発表している。薬局の棚は空で、公立病院も物資がないので患者を受け入れていない。ベネズエラの非営利団体「健康のための医師団」(Physicians for Health)が2017年3月に公表した、92の国立病院に対する調査では、78%が「薬が全くないか、深刻な不足状態」と回答した。この調査で、89%はX線撮影に支障があり、97%は検査部門が十分に機能していないとも回答している。

偉大な軍事指導者エル・ネグロ・フェリペの霊が乗り移り、恍惚とするグイディスさん。エル・ネグロ・フェリペは、シモン・ボリバルと共に戦ったベネズエラ独立の重要人物だ。(PHOTOGRAPH BY MERIDITH KOHUT, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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屈強な霊、エメレジルド

 マリア・リオンサを信仰する霊媒師は、数十もの霊と交信する。医師、先住民、年老いた農民、バイキング、将軍、ギャング、カラフルなドレスを着て踊る女性などさまざまだ。しかし、エメレジルドを呼び出せる霊媒師はグイディスさんしかいない。エメレジルドの治癒力は、霊の中でも屈指の強さだと信じられているのだ。(参考記事:「シャーマン 精霊に選ばれし者」

 エメレジルドは横柄だが頭の回転が速い霊で、白く長いあごひげを生やし、背中を丸めて、杖をついて歩く。現れるといつもコーヒーを飲みたがる。末期の状態からエメレジルドに救われたという患者は多く、不自由になった足を再び歩けるようにしてもらったという人もいる。エメレジルドに治してもらおうと、ベネズエラじゅうの病人が山深いグイディスさんの小屋を目指して旅をする。

グイディスさんがヤスマリー・ディアスさんに施術をする。地元の病院では、彼女自身が薬を持参した上、民間クリニックでの乳房スキャン料を支払えなければ乳がんの治療はできないと告げられた。ディアスさんには手の届かない額だ。(PHOTOGRAPH BY MERIDITH KOHUT, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 ディアスさんが治療を求めて山を登った日、グイディスさんは手元にコーヒーカップを置き、ひざまずいて、ディアスさんの胸にかみそりの刃で軽く触れた。深く切ったことを象徴するためにその箇所を赤いハイビスカスの花で覆い、胸から数センチのところまで前かがみになると、グイディスさんは葉巻の煙を吐いた。そして乳がんの腫瘍がある部位の皮膚に煙を吹きかけ、赤いろうそくのろうを垂らすという動作を交互に繰り返した。たばこの煙は病気を吸収すると信じられており、灰の色が黒から白に変わると、治療がうまくいっているとされる。

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