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2016年10月の西表島で、白化したイソギンチャクに包まれるハマクマノミのペア。このような状態になると、イソギンチャクはしなだれるように張りを失う。クマノミたちも、どこか元気をなくしたように動きが鈍くなる。(Photograph by Kyu Furumi)

美しくも切ない、沖縄の白化現象の記録

2017.06.29
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2016年夏、沖縄の海で起きたサンゴやイソギンチャクの大規模な白化現象。日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2016ネイチャー部門最優秀賞の古見きゅう氏が撮影した。(この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2017年7月号「写真は語る」に掲載されたものです)

 2016年2月、モルディブの海を取材中、それまで意識したことのなかった違和感を抱いていた。通常であれば年間を通して27~29℃ほどの水温であるはずが、このときは34℃近くあった。何度も撮影に訪れた海だが、ここまで水温が高かった記憶はない。すでに白くなり始めているサンゴやイソギンチャクも、ちらほらと目に入る。

 局地的な白化現象は、特に珍しくはない。このときは深く気に留めていなかったが、違和感だけはどうしても拭えなかった。今思えば、これが各地のサンゴに起こる大規模な白化現象のサインだったのかもしれない。

同年9月の宮古島では、白化したサンゴが美しい雪原のように広がっていた。浅場のサンゴがここまで白化すると、陽光を反射して、海の中が不自然に明るくなる。しばらくファインダーをのぞき続けると、目がくらくらしてくるほどだ。(Photograph by Kyu Furumi)
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 白化現象の原因は一つではない。主なところでは断続的な高水温や低水温、オニヒトデによる食害など、サンゴやイソギンチャクが外的ストレスを受けて、体内に共生させている「褐虫藻」という藻類を失うことをいう。これによりサンゴは、褐虫藻が光合成でつくる栄養を得られなくなり、いわば白骨化したのち、やがて死に至る。しかし、真っ白な状態になっても、水温が適正に下がるなど、海の状況が好転すれば、再び褐虫藻が体内に戻り、サンゴが回復することもある。

 2016年6月。例年ならば梅雨時期であるはずの沖縄地方で、初旬にはすでに真夏のような陽気が続いていた。このときは水温が例年より高い印象はまだなかったが、7月や8月になると、沖縄地方に襲来する台風の少なさが気になってきた。台風は災害をもたらす一方で、海の水をかき混ぜ、水温を下げる役割も担う。海は猛烈な日差しで温められ、水の流入が少ない内湾などでは、8月上旬にはウェットスーツを着用して海に入ると不快に感じるほど、水温が高くなっていた。その頃には、沖縄県各地から大規模なサンゴの白化が報じられることとなった。サンゴが一斉に悲鳴を上げ始めた。

宮古島のサンゴの隙間で、じっと動かず、途方に暮れているようなイシガキカエルウオに出合った。いつもは活発に動き回る彼らも、周囲の変化から、何かを感じ取っているかのように思えてならない。(Photograph by Kyu Furumi)
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 普段、緑色や茶色をしているサンゴは、白化する過程で紫、青、ピンク、黄など、淡い色へと徐々に色を変えてゆく。その姿は、どこか夢の世界を見ているように美しく、そして切ない。

 サンゴはその生命力と繁殖力で生息範囲を広げる。サンゴ礁として多くの生き物を育む頼もしい存在ではあるが、非常にデリケートで、環境の変化に弱い生き物であるともいえる。

白化した枝状サンゴの先端のクローズアップ。物悲しいまでの造形的な美しさがある。宮古島で撮影。(Photograph by Kyu Furumi)
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 サンゴがいなくなれば、サンゴ礁にすむ生き物も行き場を失い、周辺の海は廃墟のようになる。怖いほど真っ白に変わり果てたサンゴを目の前に、生き物としての強さと弱さ、美しさと儚(はかな)さ、そして自然の中での自分の無力さを痛感しながら撮影を続けていた。

2016年12月、石垣島で1匹のトウアカクマノミがイソギンチャクに残されていた。例年なら夏に産卵を繰り返すクマノミも、この年の夏は産卵している姿をほとんど見かけなかった。水温が高すぎて、ストレスを受けたのだろうか。(Photograph by Kyu Furumi)
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 8月中旬以降から沖縄地方には台風が連続して襲来し、水温は例年並みに戻ったが、回復まで至らなかったサンゴも少なくない。2017年の夏、新たに沖縄のサンゴは無事に産卵し、これまでのような美しい姿を見せてくれるのか。日本のサンゴにはどんな未来が待っているのだろうか。これからも見つめ、記録を続けていきたい。

写真家、古見きゅう氏の紹介ページはこちら

ナショナル ジオグラフィック日本版2017年7月号

 古見きゅう氏が撮影した白化現象の写真を「写真は語る」に収録。その他、南極の氷と海やハチドリなどの特集を掲載しています。

写真・文=古見きゅう

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