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2016年、インドのアグラ。建物の屋上でモンスーンの雨を楽しむリツ・サイニさん(21歳、手前)とルパさん(23歳)。2人は、過去に酸をかけられる被害に遭ったことがある。インドでは、硫酸などをかけられて負傷する女性や少女が多い。リツさんは、15歳の時にいとこに襲われた。(PHOTOGRAPH BY STEPHANIE SINCLAIR)

弱者に寄り添う「勇敢な女性ジャーナリスト」 心に響く受賞作品18点

2017.06.17
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 国際女性メディア財団が年に一度、最も勇敢な女性フォトジャーナリストに贈るアニャ・ニードリングハウス・カレッジ・イン・フォトジャーナリズム賞を、ナショナル ジオグラフィックの写真家ステファニー・シンクレア氏が受賞した。

 ピュリツァー賞の受賞経験もあるシンクレア氏は、センシティブな問題を抱える世界各地を訪れ、人権や平等を求める人々を取材することで知られている。そして弱い立場にある人々に寄り添い、心を揺さぶる写真を撮り続けている。最近では、ナショナル ジオグラフィックの2017年6月号特集「白い肌に生まれて」で写真を担当し、アルビニズムとともに生きる人々の苦悩に光を当てた。

ナショナル ジオグラフィック2017年6月号「白い肌に生まれて」

 けれども、彼女の仕事の中でも最も注目に値するのは、15年の長期にわたって取り組んだシリーズ『幼き花嫁たち』だろう。幼い少女たちを強制的に結婚させる「児童婚」、そして肉体的にも精神的にも深い傷を負った若き花嫁たちの姿を記録した。世界で児童婚が行われている国は約50カ国とされる。シンクレア氏はその多くを訪問し、この風習によって4万人近い少女が思春期の大切な時間を奪われている実態を取材した。なかには、わずか9歳という少女もいた。まだ幼い彼女たちは大人の役割を押し付けられ、妊娠し、社会との関わりを断ち切られる。(参考記事:2011年6月号特集「幼き花嫁たち」

2010年、イエメンのハッジャ。結婚したばかりの頃は「夫の姿を見るたびに隠れていました。顔を見るのも嫌でした」と語るタヒニさん(ピンクのドレスの少女)。結婚当時、タヒニさんは6歳、夫のマテドさんは25歳だった。一緒に写真に写るのは、元クラスメートのガーナさんで、やはり幼くして結婚させられた。イエメンには現在、婚姻の最低年齢を定める法律がない。(PHOTOGRAPH BY STEPHANIE SINCLAIR)
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 今回の受賞では、被写体に深く寄り添った写真はもちろん、想像を絶する苦しみや残虐さが支配する現場へあえて向かい、それをカメラに収め、世界へ知らせようとするシンクレア氏の姿勢が他と一線を画したと、審査員たちは評価している。

「想像してみてください。来る日も来る日も、幼い少女たちの恐ろしい体験に耳を傾けるその勇気を」と、国際女性メディア財団理事長のエリーザ・リーズ・ムノズ氏は言う。「それを自分自身の生涯の仕事にすること、そしてこれらの話に耳を傾け、世界に伝えることは、まさに勇気のいることです」

特別賞ニコール・タン氏の作品
2012年8月6日、シリアへの空爆でがれきの下敷きとなったハテム・クレヤさん(15歳)を運び出す男性たち。この空爆で少なくとも8人が死亡。そのうち5人の子どもは、全員兄弟だった。ハテムさんは、病院へ搬送される途中で死亡した。(PHOTOGRAPH BY NICOLE TUNG)
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 他に、2人の写真家が特別賞に選ばれた。ルイーザ・グーリアマキ氏は、ヨーロッパで起こっている難民危機の差し迫った現状を、ニコール・タン氏は、シリア、イラク、リビアの紛争に巻き込まれた民間人の生の声と姿を写真で伝えている。

特別賞ルイーザ・グーリアマキ氏の作品
2014年2月20日、ウクライナの首都キエフの広場近くで、武装したデモ隊が警官隊と衝突した。この数時間前には、追い詰められた大統領が停戦命令を出したばかりだった。(PHOTOGRAPH BY LOUISA GOULIAMAKI)
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 児童婚の仕事は、大きな反響を呼んだという。これをきっかけに、シンクレア氏は児童婚廃止のために活動するNGO(非政府組織)を立ち上げ、2012年には『Too Young to Wed(結婚するには幼すぎる)』というドキュメンタリー番組を共同プロデュースした。以来、同団体は、国連人口基金やその他の非営利団体と協力して、若い少女たちの人生や選択を狭める原因となっている問題の解決に取り組んでいる。

アニャ・ニードリングハウス氏の作品
2009年1月16日、ガザ地区からイスラエル側へ無事帰還したことを喜ぶイスラエル兵が、建国60周年の旗を手に装甲車から飛び降りる。(PHOTOGRAPH BY ANJA NIEDRINGHAUS, ASSOCIATED PRESS)
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 国際女性メディア財団は、年に一度、女性フォトジャーナリストを表彰してきた。ドイツ人フォトジャーナリストのアニャ・ニードリングハウス氏は、9月11日同時多発テロ後の中東での活動が認められ、この賞を受賞していたが、その後、2014年にアフガニスタンのカブールで撃たれて亡くなった。同賞は彼女の名を冠してアニャ・ニードリングハウス・カレッジ・イン・フォトジャーナリズム賞と改名された。

 ニードリングハウス氏とはイラクとアフガニスタンでわずかの時間顔を合わせた程度だというシンクレア氏は、ニードリングハウス氏とは違ったアプローチで不正を明らかにする。紛争が最も激しい場所や危険が最も高い地域というよりは、あまり知られていない場所へ出かけ(それでもかなりの危険を伴う)、写真に写る機会がほとんどない人々を取材する。

 それは、従来のような単なる傍観者としてのジャーナリズムからの脱却を意味する。今回の受賞は、カメラを使って正義、平等、機会均等のために戦う擁護者となったシンクレア氏の勇気をたたえるものだ。(参考記事:2017年1月号特集「少女たちが見つめる希望の光」

「ステファニーは、どう考えても客観的な写真家とは言えません」と、ナショナル ジオグラフィックの写真編集主任サラ・リーン氏は言う。「情熱的な女性で、不正を目にすると怒りを覚え、変化を起こそうと行動に移すのです」(参考記事:「写真家ステファニー・シンクレアの人生を変えたアルビノ取材」

参考記事:
写真家ステファニー・シンクレア氏のプロフィールと担当特集リスト

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