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冬の終わりは、キタキツネたちの恋の季節。3月の夕暮れ時、狩りから戻ってきた雄と雌がじゃれ合いながら、雪に覆われた美瑛(びえい)の丘で追いかけっこをしていた。(Photograph by Hiroki Inoue)

キタキツネを追いかけて

2017.04.27
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北海道に広く生息し、野山や丘や畑を駆けるキタキツネたち。その生き生きとした姿を、写真家の井上浩輝氏が撮影した。(この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2017年5月号「写真は語る」に掲載されたものです)

 北海道で、まず取り組んだのは風景写真だった。光や雲や風が自分の求める状態になる瞬間を、じっと待ち続ける日々。視界の隅を時折、何かが素早く駆け抜けていく。雪の上で軽やかにジャンプしたり、すっと優美に目の前に座ったり。そんな神出鬼没な生き物に、ふとカメラを向けてみた。僕がキタキツネを撮るようになったのは、そんなきっかけからだった。

長く厳しい冬を越えたキタキツネの上に、なごり雪がふわりふわりと降ってきた。知床国立公園 3月(Photograph by Hiroki Inoue)
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 家畜でもペットでもない以上、キタキツネのほとんどは野生動物といえるだろう。そんな認識で彼らを撮り始めた僕は、やがて一つの疑問に直面する。「野生そのもの」と言いきれるキタキツネなど、いるのだろうか?

3日間も降り続いた雨がようやく上がり、キツネもなんだかうれしそうに秋の夕空を見つめていた。知床国立公園 11月(Photograph by Hiroki Inoue)
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麦畑は、エゾヤチネズミなどの獲物探しに適した狩り場。身を隠して移動する通路にもなる。美瑛町 6月(Photograph by Hiroki Inoue)
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 自然豊かなイメージの北海道だが、美瑛や富良野の印象的な風景には農地も多い。近代以降の開拓と深く結びついた、人間がかかわって作り出された土地模様なのだ。そこに暮らすキツネたちには、畑を縦横無尽に走ってネズミを捕まえるものや、作物を失敬するもの、牧場や養鶏場の廃棄物(彼らにとってはごちそう)を狙うものもいる。近年では、キタキツネへの餌やりがよく問題になる。観光客や通りすがりの人々が菓子や弁当の残りを与え、それを覚えたキツネたちが人に餌をねだるようになる。食べ物ほしさに道路に出てきて事故に遭ったり、病気になったりするキツネもいるという。

道端で出会ったこのキツネは餌がほしかったのか、近寄ってきてこちらをじっと見つめた。知床国立公園 12月(Photograph by Hiroki Inoue)
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 人間社会に依存していない動物や、まして人を知らない動物など、この北海道にいるのか。思い悩んだ時期を経て、僕は今「A Wild Fox Chase」と名づけたシリーズに取り組んでいる。A Wild Goose Chase(無駄な試み)という英語の慣用句からひらめいたタイトルだ。カメラのレンズを意識せず、思いのままに生きているキタキツネたちの姿を追いかけていきたい。

霜が降りたアスパラ畑を泳ぐように歩いていく。美瑛町 11月(Photograph by Hiroki Inoue)
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雪の中へ、頭から飛び込むキタキツネ。エゾヤチネズミなどの小動物が、積もった雪と地面の間を走るときの小さな音を頼りに狩りをする。美瑛町 12月(Photograph by Hiroki Inoue)
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