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学校の遊戯室で、ツンドラに見立てた白い幕の前に立ち、トナカイの毛皮のコートを着た女の子。(Photograph by Ikuru Kuwajima)

ツンドラキッズ 遊牧民の寄宿学校で

2017.03.29

ロシアの北極圏に、遊牧民族ネネツが寄宿生活を送る学校がある。伝統と現代社会のはざまに生きる子どもたちを、写真家の桑島生(いくる)氏が撮影した。(この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2017年4月号「写真は語る」に掲載されたものです)

 2014年11月上旬、ロシアの北極圏に位置する炭鉱の街ヴォルクタを訪れた。この時期でも雪に閉ざされ、日照時間は5時間ほどで、日中の気温が氷点下10℃から氷点下30℃ほどという極寒の地だ。

 街の外れにある寄宿学校に、遊牧民族ネネツの子どもが50人ほど暮らしている。年齢は3~14歳ぐらいまでだというが、途中で学校をやめる子も少なくなく、5~8歳前後が一番多い。

生徒の親族がトナカイを連れて寄宿学校を訪問。魚やトナカイの肉を、街へ売りにいった帰りだという。(Photograph by Ikuru Kuwajima)
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 2階建ての学校は旧ソ連時代の地味な建物に見えるが、中に入ると独特の雰囲気に驚かされる。トナカイの角や粘土像など、ネネツの文化を思い起こさせる装飾があちこちに施されているのだ。子どもたちが独自の文化を忘れないようにするためだという。

 子どもたちは4月頃になるとトナカイと一緒にツンドラ(永久凍土が分布し、高木が生育しない地域)へ戻り、家族やトナカイと白夜の夏を過ごし、9月初め頃にヘリコプターに乗ってまた寄宿学校へやって来る。授業では一般の学校と同じように、ネネツ語やロシア語を含めた各科目を学ぶ。こうして定住社会へ溶け込む第一歩を踏み出すが、大自然で育った彼らにとって適応は容易でない。校内の装飾は生徒が学校生活になじめるようにするためでもある。

教室でトナカイの角を元気よく掲げる男の子。周囲には、現代的な校内の風景が写る。(Photograph by Ikuru Kuwajima)
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ロッカーの前で、男の子に照明を当てる保育士。展示されたツンドラの絵は生徒たちの作品だ。(Photograph by Ikuru Kuwajima)
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寝室には、ベッドが20台ほど置かれている。(Photograph by Ikuru Kuwajima)
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親や親戚が訪れたときに使われる面会室は、ネネツの文化に彩られている。(Photograph by Ikuru Kuwajima)
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 学校を十代前半で卒業しても、進学せずにツンドラに戻る子どももまだ多いという。とはいえ、グローバル化の波はこの極北の地にも達し、旧ソ連ですら同化できなかった一部のネネツの集団までのみ込もうとしている。街で一般のロシア人と変わらない定住生活を送るネネツも増えているようだ。トナカイを連れてツンドラを駆け回る遊牧民――外国人が抱きがちなイメージだけでは、現代のネネツが置かれた多様な現実をとても語りきれない。

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