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メラニー・マクドナルド(22)。ルイス島にて撮影。(PHOTOGRAPH BY LAETITIA VANCON)

スコットランド、最果ての島に住む若者たちの選択15点

2017.02.13
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美しい島々というイメージと裏腹に、人口が減っていく英国スコットランドの島々。若者たちの生の声を、写真家のレティシア・バンコン氏が聞き取った。

 アウター・ヘブリディーズ諸島をインターネットで検索してみると、夢物語のようなイメージが無数に出てくる。自然のままの海岸線、さえぎる物のない広大な空。英国スコットランドの西にあるこの島々を、旅行代理店はまるで別世界の楽園であるかのように形容する。(参考記事:特集とフォトギャラリー「英国ヘブリディーズ諸島」

スコット・マクルリー(28)は、クロフトと呼ばれる小さな農地をルイス島に所有する。郵便局員の仕事をするほか、自宅のガレージでツイードを織り、空いた時間には近所の羊たちの世話をするとバンコン氏は言う。結婚しており、父親になるのを楽しみにしている。(PHOTOGRAPH BY LAETITIA VANCON)
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 フランス人写真家のレティシア・バンコン氏もこうした評判を知っていただけに、スコットランド人作家ケビン・マクニール氏の自伝的小説「The Stornoway Way」(ストーノウェイの道:未邦訳)を読んで驚かされた。作者はアウター・ヘブリディーズ諸島のことを、アルコールに依存し、秩序の乱れた隔絶された場所として描いていた。マクニール氏が記す島の姿と、観光パンフレットに紹介される美観との激しい落差に興味を覚えたバンコン氏は、まず2016年1月にルイス島とハリス島を訪問。次いで、同年7月にノース・ウイスト島、サウス・ウイスト島を旅した。(参考記事:「ヘブリディーズ諸島の地図」

 バンコン氏は、島々への先入観を排し、「地域社会の意識を正確につかむ」よう心がけた。民家に無料で泊まるカウチサーフィンとソーシャルメディアを使い、18歳から35歳までのスコットランド人の若者に連絡。被写体になってほしいと声を掛けた。

自宅の寝室で過ごすローアン(18)。勉強を続けるため、ルイス島を出る予定だ。(PHOTOGRAPH BY LAETITIA VANCON)
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 バンコン氏にとって、被写体となってくれた人たちからのフィードバックは欠かせない。「大切なのは、自分たちの写真に島の生活が表現されていると彼らが感じることなのです」

 カウチサーフィンで泊めてくれた1人からの助言で、バンコン氏はこのプロジェクトを「1日の終わりに」(At the End of the Day)と名付けた。ゲール語の「Aig deireadh an latha」を訳したものだ。この言い回しは、地元の人々が未来を模索する際に、過去を振り返るためにしばしば使う。

 2カ月の滞在でバンコン氏が気付いたのは、若者たちはこの地の文化的遺産に深く根差し、共同体の一員だという連帯感から力を得ているということだった。彼らはゲール音楽、教会、シニー(ボールとスティックでプレーするホッケーに似たスポーツ)といった催しに集う。複数の農家が土地を共有して農牧をおこなう「クロフティング」も、地元の人々をまとめる大切な手段だ。

 にもかかわらず、とバンコン氏は続ける。この小さく濃密な島の社会を、若者たちは心強いとも息苦しいとも感じることがあるという。

アナビー(14)。両親と3人のきょうだいと共にルイス島で暮らす。子どもたちは自宅で教育を受けている。(PHOTOGRAPH BY LAETITIA VANCON)
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 アウター・ヘブリディーズ諸島では高等教育が受けられないため、多くの若者はスコットランド本土のエジンバラやグラスゴーといった大都市に出て行く。そして、大学の学位を取った後も戻ってこない者も少なくない。漁業や海底油田の採掘など、環境に左右される産業は時に不安定で、大半の仕事を男性が占めている。バンコン氏によれば、女性の勤め口は教師、看護師、事務職がほとんどで、人口の少ない島々では希望の職に空きが出るまで何年も待たざるをえないことがあるという。

「彼女たちは島を出て、移住先で暮らし続けます」とバンコン氏は話す。

 実際、スコットランド全体では人口が増えているにもかかわらず、島のコミュニティの多くは過去10年で人口が減少している。2015年の時点で、アウター・ヘブリディーズ諸島の住民は2万7070人。人が住む15の島のうち、社会の活力を保ち、島外への人口流出を抑えられるだけの人口があるのはルイス島だけだ。(参考記事:まとめ「写真で見るスコットランド」

マラソンの後、バラ島の海岸とキシミュル城の間を泳ぐアンガス。(PHOTOGRAPH BY LAETITIA VANCON)
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 島々の行く末は、英国のEU離脱問題を受けてさらに不透明になっている。この地域のわずかな産業は、EU圏内での貿易に大きく依存しているからだ。過去数十年に、EUの助成金によって道路やフェリーの船着き場といったインフラが整備されたおかげで、島々は行き来が容易になった。バンコン氏は、「本土と島々を結ぶインフラがなければ、若い世代は将来、島を出ざるを得ないでしょう」と予想する。

 それでも、ここに残ることを選んだり、一時的に都市で暮らしても島に戻ってきた例も数多い。「彼らが言うのは、都会では匿名性が高く、強く孤独を感じたということです」とバンコン氏。

 バンコン氏はこうした心情を踏まえ、アウター・ヘブリディーズ諸島の今を写真に凝縮した。いずれも詩的かつ、忘れ難いほど美しい。(参考記事:「ストーンヘンジの原点 最果ての巨石文明」

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