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雑魚を目当てにオオワシが続々と集まるなか、一足先にごちそうにありつこうと、オジロワシが飛来してきた。氷上に仕掛けた小型カメラで撮影。(Photograph by Daisaku Ueda)

風蓮湖、鳥と漁師の冬

2017.01.27
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北海道東部の風蓮湖が結氷すると、氷の下に定置網を仕掛ける漁が始まる。魚を目当てに集まってくる鳥たちを、写真家の上田大作氏が撮影した。(この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2017年2月号「写真は語る」に掲載されたものです)

 2009年1月の寒空の下、北海道東部の丘陵地帯に囲まれた農道を抜け、殺風景な漁村にたどり着いた。海抜2メートルほどの土地に、数隻の小舟と色とりどりの浮き玉が無造作に置かれている。人の気配は感じられない。

 まぶしく照り返す風蓮湖の氷原を見渡すと、はるか遠方に人影がかすんで見える。どこからともなく鳥影が集まり、瞬く間に100羽ほどが氷上に群がった。しばらくすると、そりを二つ連ねたスノーモービルが集落に戻ってきた。赤いほっかぶりに胴長をはいた漁師が、魚でいっぱいになった籠を手際よく下ろし、次々に番屋へ運んでいく。

風蓮湖は根室湾とつながる汽水湖で、結氷後も潮汐の影響を受けて、多彩な表情を見せる。湖を覆った氷は潮の満ち引きに合わせて刻一刻と動き、時折、轟音(ごうおん)が辺りの静寂を破る。(Photograph by Daisaku Ueda)
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氷上では、シロカモメの成鳥が、淡い褐色の幼鳥と激しい縄張り争いを繰り広げる。(Photograph by Daisaku Ueda)
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魚を求めて湖畔林から現れたキタキツネ。厳冬期は恋の季節で、仲むつまじい雌雄も目にする。(Photograph by Daisaku Ueda)
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 これが「氷下(こおりした)待ち網漁」を生業(なりわい)とする漁師との出会いだ。翌年から、湖に氷が張る1月になると、漁村に住み込み、漁を手伝いながら撮影を続けるようになった。湖の氷に穴を開け、その下に定置網を仕掛ける漁だ。

 漁は薄明から始まる。凍(い)てつくような冷気が漂う氷上で、吐く息が白くなって体を包み込んでいく。そんななか漁師たちは、黙々と網を引き揚げる。コマイやチカ、ワカサギ、ニシンなどを人力で水揚げしていくが、商品価値のない雑魚(カジカやギンポ、カワガレイなど)は、氷上に放置する。すると魚は瞬く間に凍結する。漁師たちが次の漁場へ移動していなくなると、カモメやカラス、トビ、オオワシなどが、凍った魚に次々に群がる。

漁師たちは、氷の下の定置網にかかった魚を人力で水揚げし、商品価値のない雑魚を氷上に放置する。(Photograph by Daisaku Ueda)
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風下から飛んできたオジロワシが、雑魚のギンポを一瞬にして持ち去った。(Photograph by Daisaku Ueda)
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凍ったカジカをくわえて大空を飛翔するオジロワシ。(Photograph by Daisaku Ueda)
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 30年ほど前、スケトウダラ漁で知床半島の羅臼の港がにぎわっていた頃には、その沿岸の木々にたくさんのワシが止まっていたと聞くが、今ではその数も減った。その代わり、風蓮湖に平均して1000羽近いオオワシとオジロワシが毎年集まるようになった。人の営みが越冬地の変化に深く関わっていることがわかる。

 漁師たちが氷の上に雑魚を放置したことがきっかけとなって、人と動物との共生関係が自然に築かれた。漁師は言う。森と川、そして多様な生物が湖を豊かにするのだ、と。「森と川と海はひとつ」。風蓮湖周辺に生きる漁師の合言葉になっている。

次ページ:風蓮湖のワシや漁の写真、さらに6点

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