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香港コミュニティー組織協会(SoCO)によれば、香港では、推定20万人が不適切な住居に暮らしているという。(PHOTOGRAPH BY BENNY LAM)

香港にひそむ貧困、1畳間に暮らす人たち 写真22点

2017.07.31
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「あの日、私は家に帰って泣きました」。ベニー・ラム氏は香港の過酷な生活環境を撮影したある日のことをこう振り返る。

 香港の旧市街では、アパートの空間をさらに分割した小さな部屋で多くの人が暮らしている。「コフィン・キュービクル(棺おけ部屋)」と呼ばれる、木の板で囲まれた約1.4平方メートルの小部屋だ。ラム氏は4年をかけて100以上の部屋を訪れていて、カメラ越しに見る光景に慣れてしまっていた。

 その日、撮影していたのは普通より少し大きいキュービクルだった。そして、住人にうっかり「大きな部屋ですね!」と言ってしまった。

「とても後悔しました」とラム氏は振り返る。「あのような生活は普通ではありません。いつのまにか感覚がまひしていました」

台所とトイレが一緒になった部屋。(PHOTOGRAPH BY BENNY LAM)
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 香港には、ネオンきらめくショッピングモールがいくつもあり、物欲の旺盛な消費者が高級ブランド品や宝飾品、ハイテク製品を買い求めている。高層ビル群にはさまざまな企業が入居し、世界の金融センターを支えている。

 しかし、そうした華やかな風景の裏では、4万人の子供を含む約20万人が10平方メートル未満の部屋に暮らしている。(参考記事:「九龍の高層ビル群(香港)」「香港 忍び寄る中国の影」

 香港の人口は750万に近付いており、開発可能な土地はほとんど残っていない。その結果、香港の地価は世界最高水準まで上がった。急騰する家賃を支払えない何万人もの人々に残された選択肢は、掘っ立て小屋、台所とトイレの区別がない小部屋、コフィン・キュービクル、ケージ・ホーム(籠の家)くらいだ。ケージ・ホームは約180センチ×75センチの小さな部屋で、金網で囲まれていることからこの名で呼ばれている。

香港の人々にとっては、小さく質素な家すら手に入れることが難しい。(PHOTOGRAPH BY BENNY LAM)
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「寝食すべての活動がこの小さな空間で行われています」とラム氏は説明する。アパートの所有者は約37平方メートルの部屋に20台の2段ベッドを置き、それぞれを板で囲んでコフィン・キュービクルをつくる。家賃は月額2000香港ドル(3万円弱)程度に設定されている。アパートの分割は違法だ。居住空間は立って入ることができないほど狭い。(参考記事:「2100年の世界人口は112億人、国連予測」

 ラム氏は香港の繁栄の光が届かない場所にある、息の詰まるような住居に焦点を当てるため、「Trapped(捕らわれの身)」と題された写真シリーズを発表した。こうした住居とその住人を紹介することで、この社会的な不公正がより多くの人の目に留まることを願っている。

香港は繁栄の象徴とされているが、きらびやかな仮面の下には、掘っ立て小屋やケージ・ホームが隠されている。(PHOTOGRAPH BY BENNY LAM)
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「私たちの人生にかかわるわけではないこうした人たちのことを、どうして気に掛ける必要があるのかと思う人もいるでしょう」と、ラム氏は自身のFacebookページで呼び掛けている。「彼らは私たちの日常にかかわる人々です。あなたが行くレストランのウェイター、あなたがぶらぶらするショッピングモールの警備員、あなたが通る道で掃除や配達をしている人たちなのです。私たちと彼らの唯一の違い(は住む家です)。これは人間の尊厳の問題なのです」

【参考動画】力強い香港:都市とその住人たち
映像作家ブランドン・リ氏が「香港のさまざまな側面に深く入り込んだ」作品。ナショナル ジオグラフィック「Short Film Showcase」で公開しているが、表現内容は作者によるもの。(解説は英語です)

 ラム氏は特に印象的な写真を1枚挙げている。ベッドでくつろぐ男性の写真だ。足をまっすぐ伸ばすスペースがなく、軽く曲げて開いた両膝は窓のない壁にくっつきそうだ。夕食だろうか、ベイクドビーンズの缶詰を食べながら、虹がまぶしく光るテレビを見ている。低い天井から洗濯物がぶら下がっている。ラム氏はこうしたコフィン・キュービクルでの典型的な暮らしを恵まれた人々や政府に見せ、香港の住宅危機と所得格差に対処すべき理由を示したいと考えている。(参考記事:「米国で狭小住宅がブーム?!」

これらの写真はSoCOのために撮影された。SoCOは香港の政策と生活水準の改善を目指すNGOだ。(PHOTOGRAPH BY BENNY LAM)
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 小さな家の扉を開け、赤の他人に話をしてくれた男性、女性、家族。ラム氏はその勇気に心を打たれた。ラム氏によれば、多くの人が狭い場所での暮らしを恥ずかしく感じながらも、自分たちの写真が支援のきっかけになることを願っているという。


【おわびと訂正】 本文中、「家賃は月額200香港ドル(3000円弱)程度に設定されている」としておりましたが、正しくは「家賃は月額2000香港ドル(3万円弱)程度に設定されている」でした。おわびして訂正いたします。(2017年8月2日)

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