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【ギャラリー】活火山の火口で「悪魔の金」を掘る男たち 写真20点(写真クリックでギャラリーページへ)

36歳のハディス氏は、フルタイムの鉱山作業員として10年間働いてきた。(PHOTOGRAPH BY ANDREA FRAZZETTA)

活火山の火口で「悪魔の金」を掘る男たち 写真20点

2018.04.04
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 分厚い煙のベールが空を覆い、あたりはマッチが燃えたような匂いに満たされている。

 インドネシア、東ジャワ州にそびえる活火山、イジェン山の内部からは、人の目を刺し、肺を焼き、肌を溶かすような有害物質が染み出している。しかし1968年以降、「悪魔の金」と呼ばれる硫黄を目当てに、ガスの霧と高温の噴気が出るこの予測不能な迷路に、人が足を踏み入れるようになった。(参考記事:「この世の果て? 地獄のような絶景10選」

 イジェン山の幻想的な風景は200年以上前から多くの科学者や旅行者を惹きつけてきたが、今では鉱山作業員そのものが観光の見どころのひとつとなっている。

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イジェン山の火口から硫黄を運び出す41歳のスナルト氏。(PHOTOGRAPH BY ANDREA FRAZZETTA)

青く輝く幻想的な炎

 鉱山作業員たちは毎日、暗闇の中で2.7キロの険しい山道を登り、さらにそこから火口の内部に向かって900メートルの斜面を下る。そこにずらりと並んだ陶製パイプが、ガスを集めて硫黄を凝結させている。

 有毒な煙霧と熱気に包まれながら、作業員は硬い硫黄の塊から破片を削り取り、70〜90キロ分を担ぐと、今度はさっき降りてきた火口の斜面を登っていく。彼らはこれを1日に2回繰り返す。収入は1回につき平均5ドル(約530円)だ。

 午前2時、作業員の第一陣が山を登り始める頃には、すでに数百人の観光客が、イジェン山の斜面を歩き回っている。彼らの目当ては、夜にしか見られない有名な青い炎だ。そのおかげで、直径約800メートルのターコイズ色をした火山湖は、暗闇の中で不気味な光を放つように見える。この世界最大の酸性湖は、見た目の美しさに反して、金属を溶かすほど腐食性が高い。(参考記事:「火山の青い炎、ジャワ島のイジェン山」

観光かのぞき見か

 鉱山ツアーは文化遺産観光の一形態として、アフリカからオーストラリアまで世界中に存在する。しかしイジェン山のように現役の鉱山はほとんどなく、その大半が「博物館化」されている。(参考記事:「ソ連時代の鉱山、時が止まったような街と人々の暮らし 21点」

 一部の研究者は、観光客がそうした場所に惹かれるのは、哲学で言うところの「崇高」な感情を喚起させられるためだと主張する。「崇高」とはたとえば、自然の凶暴な力のような、危険だが畏怖を感じさせるものを見たときに感じる喜びのことだ。

 イジェン山はまさに「崇高」だ。

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ガスマスクをつけた観光客たちが、火口の縁から火口湖の写真を撮る。この酸性湖は、金属を溶かすほど腐食性が高い。(PHOTOGRAPH BY ANDREA FRAZZETTA)

 ハイシーズンには、山には1日1000人を超える観光客が訪れる。彼らの中には、鉱山の作業員に対して、少額のチップと引き換えに写真に収まってくれと頼む者も少なくない。批評家はこれを「貧困ツーリズム」と呼び、人間の苦しみを商品化する行為だと指摘する。(参考記事:「なぜライオンは今も狩猟の対象なのか?」

「観光客は危険な場所から生還したエピソードを話すことを楽しんでいるように見える。エクストリームスポーツ(過激な要素をもったスポーツ)などの危険性の高い娯楽に挑む心理と同じようなものだ」。米ノースアラバマ大学の地理学教授、マイケル・プリテス氏は論文の中でそう述べている。

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イジェン山で作業員として働くスナルト氏。近隣のプラムバング村で生まれ、今も息子のマルコを含む家族と村で暮らしている。鉱山では1日平均10ドル(約1060円)を稼ぐ。(PHOTOGRAPH BY ANDREA FRAZZETTA)
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バニュワンギ地区の田んぼで働くイブ・カイリア氏。一帯の土は、火山性土のおかげで作物がよく育つ。(PHOTOGRAPH BY ANDREA FRAZZETTA)

 一方でツーリズムは、その動機がなんであれ、経済発展を促す有力なツールとなり、同時に過酷な労働環境を周知させる役割も果たす。東ジャワ州の観光産業は、全体で約20万人を雇用している。採鉱業は同地方で特に賃金の高い職業のひとつであり、そこで働く人々は周囲からの尊敬を集めている。彼らの多くが自身の丈夫な体と、観光客を島に惹きつける役割にプライドを感じている。(参考記事:「観光客の波がベネチアを台無しにする?」

「彼らにとって観光客は、いわば新たな鉱石であり、金属資源と同じように、好景気や不景気をもたらす可能性を秘めているものだ」とプリテス氏は言う。

 それでも、これがリスクの高い仕事であることに変わりはない。作業員の多くが、金銭的な理由から、あるいは作業の邪魔になることを嫌って、手袋やマスクといった防御装備を使わずに済ませている。短時間でも濃度の高い二酸化硫黄にさらされれば命に関わり、急な症状は出なくても慢性的に身をさらせば呼吸障害、気道閉塞、肺機能障害につながるおそれがある。

 貧しい環境に暮らす人々が見世物になるのを防ぐために、エシカル・トラベル(社会や環境に配慮した旅行)の専門家は、観光客が一切写真を撮らないこと、あるいは被写体となる人に許可を得ることを勧めている。

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バニュワンギ地区を覆う緑豊かな田んぼ。(PHOTOGRAPH BY ANDREA FRAZZETTA)

火口が立ち入り禁止に

 しかしながら、イジェン山の観光地・採鉱地としての未来は不透明だ。環太平洋火山帯に属しているインドネシアには、世界の活火山の75%があり、地震の90%の発生源であるとされる。(参考記事:「3つの火山が相次ぎ噴火、インドネシア」

 記録にあるイジェン山の最大の噴火は1817年に起こったもので、激しい噴火が数週間にわたって続いた。目撃者の話によると、灰が太陽を遮るほど厚く空を覆い、流れ出した酸が川を汚染し、竹でできた家々を土砂が押しつぶしたという。

 2018年3月には、イジェン山から有毒ガスが噴き出し、周辺に暮らす数百人が強制避難を命じられ、30人が病院に運ばれた。この事故の後、国家防災庁からは「以後の通知があるまで、火口周辺への一切の立ち入りを禁ずる」との通達が出されている。

 イジェン山への立ち入りが禁止されたのはこれが最初ではなく、また最後にもならないだろう。しかしたとえ遠くからでも、煙を吐き出すイジェン山の火口が見事な眺めであることに変わりはない。(参考記事:「人類が変えた地球の景観10点」

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イジェン山にある酸性湖は、鮮やかなターコイズ色をしていることで知られる。専門家は、噴火や地震で酸性湖の水が溢れ、周囲の村に甚大な被害を及ぼすことを懸念する。(PHOTOGRAPH BY ANDREA FRAZZETTA)

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文=Gulnaz Khan/写真=Andrea Frazzetta/訳=北村京子

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