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コムソモーリスカヤ駅:このモスクワ市でも有数の乗降者数がある駅では、全部で68本の見とれるほど美しい大理石の柱を、シャンデリアが照らしている。(PHOTOGRAPH BY JEFF HEIMSATH)

宮殿?モスクワの荘厳な地下鉄駅、写真10点

2018.03.21

 ロシアの首都では、人々は毎日、地下の豪華な宮殿を通って通勤している。そびえるような大理石の壁にモザイク画が輝き、亡くなった指導者たちの彫刻が置かれ、ロシアの歴史的な場面を描いた絵画をクリスタルのシャンデリアが照らす。世界中の多くの都市にある実用的なだけの地下鉄とはちがい、モスクワの地下鉄は、過去の、しかし忘れ去られてはいない歴史のステージの中を走り抜けているのだ。

 モスクワ市の地下鉄は、ソビエトのプロパガンダ計画の一環として、1935年に開業した。最初の13駅の開通祝いでは、ボリショイ劇場の管弦楽団が合唱曲を演奏する中、群衆のパレードが地下道を練り歩き、社会主義における技術の進歩が、遅れた資本主義社会に勝ったと賞賛した。(参考記事:「20世紀の戦争プロパガンダ地図12点、敵はタコ」

【ギャラリー】モスクワの荘厳な地下鉄駅 写真10点(写真クリックでギャラリーページへ)
プロスペクト・ミーラ駅:最寄りのモスクワ大学付属植物園に合わせたように、上部に植物が彫刻された白大理石の壁。(PHOTOGRAPH BY JEFF HEIMSATH)

 しかし、この華やかな開業の陰には、語られていない多くの問題があった。「困難な建設工事や強制労働、数々の事故、莫大な資金の投入などがなければ、このモグラの隠れ家のような建築は決して完成しなかったはずです。しかし、それらはほとんど遠い昔の記憶になってしまいました」と、ドイツの建築家で、ソ連の都市開発の専門家であるフィリップ・モイザー氏は語る。(参考記事:「壊されたレーニン像の今、写真18点」

 むしろ、この豪華な建築物は、この国の明るい未来予想図になっている。当時のソ連のデザインを研究している英ブリストル大学のマイク・オマホニー教授は、次のように説明する。「1930年代、地下鉄はビジュアル文化を発信する重要な場となり、この国の名だたる建築家や彫刻家、芸術家がその設計や装飾のために駆り出されました。ソビエトにとってモスクワの地下鉄は、芸術を私的なコレクションから公の場へ引き出すための絶好の乗り物だったのです」。国が認めた芸術スタイルで民衆を取り囲むことで、時の政権はそのイデオロギーをあまねく浸透させることができた。(参考記事:「北朝鮮の地下鉄に乗ってみた 写真13点」

 現在、モスクワの地下鉄には212の駅があり、路線の総距離は約350キロに及ぶ。これは世界で6番目の長さだ。落書きや破壊行為は皆無で、今もモスクワ市民の自慢の種だ。観光客は、地元の人込みに混じって美術館のような地下の迷路をさまよってみることも、路線を使った建築物観光ツアーに参加することもできる。終着点がどこであれ、この鉄道は、あらゆる人に社会主義革命の夢を見させるのだ。(参考記事:「Webナショジオ・インタビュー 廣田あいか 路線図が切り開いた鉄道好きへの道」

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文=Christine Blau/写真=Jeff Heimsath/訳=山内百合子

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