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モスクワの宇宙飛行士記念博物館で行われたサイバースーツ開発に向けた資金集めのイベントに出席した、トランスヒューマニストで神経生物学者のオルガ・レヴィツカヤ氏。彼女が身に着けているのは、怪我をした患者のリハビリを助けるスーツの試作品。2020年に市場に出されれば、多くの人々に利用されるだろう。現在の価格は約3万5000ドル(約375万円)。(PHOTOGRAPH BY GIUSEPPE NUCCI)

蘇生を願い、人体を冷凍保存する人々 写真16点

2018.02.28

 ロシア、モスクワから北へ2時間ほどの距離にある小さな白い倉庫には、再び生を得る日を待ちわびる56人の遺体が収められている。遺体は完全に血液を抜かれ、マイナス196℃の液体窒素に逆さまに漬けられた状態で、100年先まで保存される。

 遺体の多くは、自然死を迎えた高齢者のものだ。ほとんどが生前にこうした処置をしてほしいと希望していた人々だが、一部には本人の死後、家族が愛する人のために3万6000ドル(約385万円)(頭部のみであれば1万8000ドル(約193万円))を支払って、遺体を冷凍保存したケースもある。保存期間は基本的に100年で、22世紀の科学の進歩状況によっては延長される可能性もある。(参考記事:「インドネシア 亡き家族と暮らす人々」

 科学の進歩を待つというのが、人体の冷凍保存、ひいては「トランスヒューマニズム(超人間主義)」と呼ばれる世界観の背後にある論理だ。がんや心臓病で亡くなったとしても、そうした病が存在しなくなった未来であれば、人は蘇生できるかもしれない。「彼らは技術の進歩を信じています」。人体の冷凍保存を手がけるロシアの「クリオルス社」の施設を訪ね、トランスヒューマニストたちを取材したイタリア人写真家のジュゼッペ・ヌッチ氏はそう語る。「彼らは、いつか誰かが自分を目覚めさせてくれることを望んでいるのです」(参考記事:「人類進化の行方:4つの可能性を提示」

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モスクワ郊外にある液体窒素とドライアイスの工場で、霧に包まれて液体窒素タンクへの補充作業をする人々。ここはクリオルス社の元従業員が立ち上げた会社で、現在は同社に液体窒素を供給している。(PHOTOGRAPH BY GIUSEPPE NUCCI)

 現在ある病気は将来的に克服されるはずという考え方は、この世界は常に少しずつ進歩しているということに人々が気づいた古代から存在する。20世紀初頭、ロシアでは哲学者のニコライ・フョードロヴィチ・フョードロフらの提唱により、十分な時間があれば、人間は悪や死を克服できるという考えに根ざしたロシア宇宙主義運動が起こった。人の一生が短すぎるならば、それを延ばせばよい、死んだ後も腐敗を止めて、世界の技術が追いつくのを待てばよいと彼らは考えた。(参考記事:「生と死 その境界を科学する」

 それから100年以上がたった今、フョードロフの宇宙論はトランスヒューマニズムへと形を変えた。トランスヒューマニズムとは、技術の進歩は現代の人間の限界を超越できるという考え方だ。現在、トランスヒューマニズムが盛んなのはロシアだが、その影響力は世界に広がっている。クリオルス社で保存されている56体の遺体のうち、約4分の1は外国人のもので、その中にはイタリア人、ウクライナ人、米国人、イスラエル人が含まれている。またペットも22匹おり、イヌやネコの他、少なくとも1匹のチンチラがいる。(参考記事:「「死」を考える博物館が閉館、米ニューヨーク」

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ドイツのドキュメンタリー映画製作のために、クリオルス本社でマネキンを使って冷凍保存のデモンストレーションを行うトランスヒューマニストのアレクセイ・サムイキン氏とイーゴル・トラペーズニコフ氏。遺体の血を冷凍保存用の液体と入れ替えるには、4〜8時間を要する。遺体の処置にあたるのは専任の医療チームだ。(PHOTOGRAPH BY GIUSEPPE NUCCI)

「トランスヒューマニストが全員、冷凍保存されることを望んでいるわけではありません。ほとんどがその技術に関心をもっているだけです」とヌッチ氏は言う。トランスヒューマニズムにおいて用いられる手法は冷凍保存だけではないが、遺体の腐敗を止める技術としては、これが飛び抜けて信頼性が高い。遺体が冷凍保存された最初の人物は、1967年に腎臓がんで亡くなったジェームズ・ベッドフォード氏だ。彼の遺体は米アリゾナ州の施設で冷凍保存されており、51年経った現在も変化を見せていないという。(参考記事:「長老をいぶしてミイラに、アンガ族の伝統に密着」

 しかしながら、映画の世界以外では、冷凍保存から復活した人間は今のところ存在しない。病気のないユートピアのような未来が訪れるのはまだ先になりそうだが、クリオルス社の倉庫で眠っている56体の遺体たちは、そう先を急いではいないだろう。(参考記事:「世界各地のミイラ、ちょっと意外な作成法も」

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文=Daniel Stone/写真=Giuseppe Nucci/訳=北村京子

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