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大移動するサーディンを襲うカツオドリ。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)

激写!海の狂騒に鳥もイルカも グランプリ作品撮影秘話

2016.12.17
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ナショナル ジオグラフィックのネイチャー写真賞「Nature Photographer of the Year 2016」グランプリは、数千点の応募作品の中からフランス出身のグレッグ・ルクール氏に決まった。写真は、大移動するイワシ(サーディン)の群れを襲うカツオドリをとらえた見事な一枚。車で旅しながら撮影というノマド生活を送っているルクール氏に、撮影秘話を語ってもらった。

サーディンを狙って海へ飛び込むカツオドリ。時には、30メートルの高さから一気に水面を突き破ることもある。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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 これらの写真は、南半球が冬を迎える時期、南アフリカの海で見られるサーディンラン(イワシの大移動)をとらえたもの。数億匹とも言われるサーディンの大群が、アフリカ大陸南端から北東へ向け移動する。長さ数キロに伸びたサーディンの巨大な塊は、宇宙からも見えるほどだ。そして、この塊に引き寄せられるように、捕食者たちも数多く集まってくる。

 2015年6月、私は南アの港町ポート・セント・ジョンズを初めて訪れた。サーディンランを見るために、小型船の船長とダイバーとともに2週間毎日のように沖へ出た。最高のコンディションを待って、1週間くらいは海へ潜らなかったのではないかと思う。

 ある日、海がエネルギーに満ちているのを感じた。数百頭のイルカが、船をエスコートしていた。前方に広がる水平線の一点から、カツオドリのやかましい鳴き声が近づいてきた。空から海面めがけて急降下する鳥たちの動きはぐんぐんと勢いを増す。

この写真に写るサーディンは、ベイト・ボールと呼ばれる大きな群れをなして泳ぐことが多く、危険を察知すると海の奥深くへ潜る習性がある。この写真は、下へ潜って逃げようとするベイト・ボールを、水面近くへとどめようとするイルカを撮影したもの。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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 私たちの船は、空を旋回する海鳥たちの方角へまっしぐらに突き進んでいた。アドレナリンが体中を駆け巡る。捕食者たちによるサーディン狩りの始まりだ。

 実際に潜ってみるまで、水面下でこれほどの光景が繰り広げられているとは想像もできなかった。私はダイビングの装備を背負って海へ飛び込み、ベイト・ボール(エサの玉)と呼ばれるサーディンの群れを目指して泳いでいった。

いったん深く潜った後、上昇するカツオドリ。彼らが水面を打つ瞬間の速さは時速80キロにも達する。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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 海の中は大混乱だった。初めに目に入ってきたのは、サーディンのうろこ、イルカたちの起こす泡と歌声。そして次々に水面を突き破って飛び込んでくる鳥たちの立てる爆音が響きわたる。

 目の前で、イルカたちがサーディンの群れに襲いかかる。カツオドリたちが稲妻のように水面を突き破り、10メートルくらいの深さまで一気に潜ったかと思うと、今度は泳ぎながらここぞとばかり手当たり次第にサーディンを捕まえる。

 私は目まぐるしく動き回る動物たちを追って連写した。サーディンランは、海の大宴会ともいうべき、自然界でも最も力強く、興奮する現象だろう。(参考記事:「【動画】サメやクジラも結集!「世界最大の魚群」」

サーディンを捕るため水に飛び込み、浮上するケープシロカツオドリ。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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カツオドリは、水深10メートルまで潜ることができる。写真は、いったん潜った後に上昇しながらサーディンを捕らえるカツオドリ。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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捕食者たちのチームワーク

 周辺海域にすむ捕食者たちは、そろってこの宴会への招待状を受けたに違いない。数百ものサメ、マグロ、バショウカジキ、アシカ、そして時にはニタリクジラまでもが集まってきた。この日彼らはひとつのチームとなり、連携し合ってサーディン狩りを行う。

 チームを率いるのはイルカたちだ。私たちにサーディンの居場所を教えてくれただけでなく、イルカは狩りを始めようという時に互いに信号を送り合う。水中で彼らがコミュニケーションをとっているのを聞くこともできる。(参考記事:「イルカと話せる日は来るか」

サーディンのベイト・ボールを水面近くにとどめておくため、周囲を泳ぎ回るイルカたち。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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 イルカたちは音波探知能力や泡の流れを使ってサーディンの群れの位置を特定し、孤立させるという特殊な狩りのテクニックを編み出した。サーディンランを列車とすると、イルカたちはその真横から体当たりして、その1両を列から押し出す。押し出された車両は、ひとつのベイト・ボールとなって孤立するのだ。

 この場所に居合わせることができて本当に幸運だったと思う。イルカたちが近づいてくる音が聞こえる。そしてベイト・ボールの周囲を回り始める。

 次に鳥たちの鳴き声が耳に入った。そしてこれが一番の見ものだった。鳥たちはイルカの到来を待ち、イルカの合図を受けて飛び込むのだ。

一番おいしそうな魚を探して、ベイト・ボールの真ん中を突き抜けるアシカ。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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 この光景が3、4回繰り返されて、ようやく私にも事の次第が理解できた。鳥たちがイルカの合図で飛び込んでいるとわかると、後は突っ込んでくる鳥を待ち構えてカメラのシャッターを切り続けた。

 アホウドリやアジサシなど、多くの海鳥がベイト・ボールに群がってくるが、主役は何といってもケープシロカツオドリだ。驚異的な視力でイルカを追い、30メートルの高さから時速80キロで真っ逆さまに海へ飛び込む。水へ入ると深さ9メートルまで潜り、サーディンを腹いっぱいほおばると、水面へ浮上する。(参考記事:「空飛ぶダイバー シロカツオドリ」

 サーディンは、捕食者がやってきても散り散りになることはなく、本能的に塊のまま下へ泳いで逃げようとするが、イルカたちがこれを阻止して水面近くにとどめる。

泡を出し、仲間同士で合図を送り合ってサーディンの到来を告げるイルカたち。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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海の中の発見をシェアしたい

 海の中にあるものを発見すること、それが私の人生だ。子どもの頃、地中海の魅力に取りつかれた。

 以前は会社を経営し、毎日のように働いていた。金はあったが、海で遊ぶ時間はなかった。そこで会社を売り、車を売り、ボートを売った。アパートを引き払い、飼い犬の面倒を見てくれる人を見つけた。

 そしてバックパックとカメラだけを持って、1年間旅に出た。ダイビング雑誌に私の撮った写真が掲載されるようになり、それ以来この生活を続けている。ダイビングだけをして、四六時中水の中で自然と一緒に過ごして、もう3~4年になる。

サーディンランには、このサメのように多くの捕食者たちが集まってくる。彼らは、ごちそうに群がる他の動物たちを襲うことはなく、サメもイルカも鳥たちも、互いに協力してサーディンだけを狙う。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR)
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 今回受賞したことは、私にとってとても重要な意味を持つ。6年前に会社を売り払った時には、こうなるとは予想もしていなかった。

 コンテストで賞を取ったのが水中写真だったことも、とてもうれしい。人類は他の惑星を探そうとしているが、この地球上にある海ですら、探検されたのは恐らく10~20%ほどでしかない。

 海には生命が満ち溢れているが、ほとんどの人間にとってアクセスが難しい場所でもある。私の世界であるこの海、レンズを通して自分が見た海を人々とシェアすることが、私にとってとても大切なことなんだ。

文・写真=Greg Lecoeur/訳=ルーバー荒井ハンナ

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