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ジョゼフ(88)。2014年、ノワジー・ル・グランのレゼスパス・ダブラクサスにて。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)

パリの忘れられたユートピア

2016.09.26
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 戦後に相次いで建設され、今では批判の多いパリ郊外の集合住宅群。写真家ロラン・クロネンタール氏は、建物も住人たちも賞賛に値すると信じている。

 1980年代に英BBCが制作・放送していたドキュメンタリー番組「ザ・ショック・オブ・ザ・ニュー」をまとめた本に、こんな一節がある。1950代にパリ近郊で相次ぎ建設されたポストモダン住宅事業「グラン・アンサンブル」(大規模集合住宅群)を、美術評論家のロバート・ヒューズ氏が批判する。ヒューズ氏に言わせれば、これらの建築物が示すのは「都市の絶望という新たな景観──輝かしく、野蛮で、犯罪に悩まされ、自ら招いた破壊行為で傷ついている」。

 ヒューズ氏がこう評したのは1980年。ちょうどこれらの建物が、社会の主流をなす文化から非難され始めたころだ。当初は現代性が形になって現れたと考えられていた建築だが、後に貧困と犯罪の集まる場所へと転落し始め、今も時代から取り残されたままだ。

ジョゼット(90)。2013年、エスプラナード・ド・ラ・デファンスのビジョン80にて。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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 しかしフランスの写真家ロラン・クロネンタール氏は、これらの集合住宅とその住人、特に年配者たちが賞賛に値すると固く信じている。

ドニーズ(81)。2015年、イブリー=シュル=セーヌのシテ・スピノザにて。
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アラン(80)。2013年、クールブボアのレ・ダミエにて。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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 クロネンタール氏がこのスタイルの建物を初めて見たのは、パリ郊外のクールブボアを歩いていたときだ。ラ・デファンスの商業地域周辺に林立する集合住宅が目に入った。シュールな建築様式に目を奪われたクロネンタール氏は、パリ周辺にあるほかのグラン・アンサンブル住宅も探して写真に撮ろうと決心した。彼は本誌の取材に対し、メールでこう語った。「住宅群は時代を超越しているように見え、その存在理由があたかも過去と現在を行き来しているかのようでした」。「私はグラン・アンサンブルの歴史、起源、そして社会における位置づけに関心を持ちました」

ジャック(82)。2015年、モンティニー=ル=ブルトンヌーのル・ビアデュック・エ・レザルカード・デュ・ラックにて。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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 写真撮影に入るには少々時間がかかった。まず、住宅団地を探して足を踏み入れるには、その地域のコミュニティとつながりを深める必要があった。次いで、暮らしているお年寄りたちを探し出し、友人になり、プロジェクトに参加してくれるよう説得しなければならなかった。「プロジェクトの目的を説明し、関係を築こうと努めるのは、私にとって大きな挑戦でした」とクロネンタール氏。「ですが、その障壁をいったん乗り越えると、記憶や思いを伝えることを彼らがいかに必要としているかが分かりました。住人たちと心からの関係を築けたことは大きな喜びです」

 撮影場所を探すのにも数カ月を要した。クロネンタール氏が使うのは大判フィルムカメラであり、「特別なアングルと、ありきたりでない視点を見つけようと」決めていたからだ。最適な光を探すことも不可欠で、カメラを一切持たずに何日も団地の中を朝早く歩き回った。この試みの成果として、出来上がった作品の多くが、夜明け前後に撮影された。

 団地の配置を把握し、住人たちの信頼も得たクロネンタール氏は、これらの建築物がどのように彼らのニーズに応えていたのかについて、より深く考え始めた。そうした関心は、仕上がった作品が人物の肖像と風景を区別せず並べているという点に現れている。「このアイデアは人と都市との相互作用を強調しようとしたものなのです」

ジョゼ(89)。2012年、クールブボアのレ・ダミエにて。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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 結果としてこのプロジェクトは、建築と人間との関係をめぐる思慮深い探究と解釈できる。「重要だったのは、これらの建物が存在する事情について自分自身に問いかけることです」とクロネンタール氏は言う。「そして、私たちが忘れてしまった世代にいくらかの光を当てることでした」

ナンテールのシテ・パブロ・ピカソにあるレ・トゥール・アヨー、2014年。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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パリ19区のレ・オルグ・デ・フランドル、2014年。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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ドニーズ(81)。2015年、イヴリー=シュル=セーヌのシテ・デュ・パルク・エ・シテ・モーリス・トレーズにて。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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ノワジー・ル・グランのル・パヴェ・ヌフ、2015年。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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リュシアン(84)。2014年、ノワジー・ル・グランのレ・エスパス・ダブラクサスにて。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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ナンテールのシテ・パブロ・ピカソにあるレ・トゥール・アヨー、2013年。(PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL)
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You can see more of Laurent Kronental's photographs on his website here.

文=Jehan Jillani、写真=Laurent Kronental/訳=高野夏美

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